劇場公開日 1949年5月

「ミニヴァー夫人 ~ 戦争の不条理」ミニヴァー夫人 細谷久行さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ミニヴァー夫人 ~ 戦争の不条理

2018年5月2日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

悲しい

興奮

この映画はしばしば「戦意高揚映画」とか「プロパガンダ映画」と呼ばれるが
そういうよりはむしろ戦争のむごさ、とか悲惨さを表し戦争を告発した映画としたほうが適切かと思われる。
ロンドン郊外の田舎町にミニヴァー夫妻が幸福に暮らしていた。ミニヴァー夫人( グリア・ガースン ) は 明るく品位と美貌をもった、中産階級に属する夫人である。また三人の子供の母親でもあった。少し浪費癖があってこの日も高級店で散財をしてしまった。夫も夫でやや背伸びをして高級車を買って妻たちを喜ばせようとした。長男のヴィンは名門の大学生で休暇をとって帰省していた。いくらか学をつけていて下級階層の貧困問題についてその成果を披歴した。翌日、名門階級の老婦人の孫娘キャロル ( テレサ・ライト ) が訪ねて来て、バラの品評会で祖母が丹念に育てたバラを「ミニヴァー夫人」( 駅長にせがまれて冠した名 ) によって首位を阻むことをされないようにと歎願した。祖母ベルドン夫人の年に一度の最大の楽しみであったからである。ここで気づくことはカメラワークの素晴らしさである。ソフトフォーカスの手法でミニヴァー夫人、キャロルの品位と美貌と気品が神秘的に浮かび上がって実際以上に観る者を魅了する。ヴィンとキャロルは初めのうちこそ反発しあうが、これを機会にお互い引かれあうようになる。だが幸福な気分の継続はこの時くらいまでで、戦争の影が忍び寄ってくる。
やがてイギリスはドイツに宣戦を布告し戦争になる。ヴィンは空軍に志願し、近くの飛行場に配属される。このとき二人は正式に結婚する。クレム・ミニヴァー( ウォルター・ピジョン ) も村民とともに近くをボートで巡察し、無事の帰る。夫人は少し前、村に不時着したドイツ軍パイロットに家宅侵入されるという恐ろしい思いをした。ミニヴァー夫人は夫と子供たちと共に防空壕でドイツ軍の苛烈な空爆に耐えた。そんなさなか、どうしてか花の品評会が開かれた。バラの部門で、あの頑固なベルドン夫人は自己のバラをおろして「ミニヴァー夫人」を首位に据えた。何という決断であろう。なんという意表を突く英断であろう。これによって万雷の拍手を浴びた。
名門階級の壁を一時的にせよ取り払ったからではないか。ところがその時、ドイツ軍の空襲を受け、蜘蛛の子を散らすようにおのおの逃げ惑った。がしかし、ミニヴァー夫人とキャロルの乗った車は敵機の機銃掃射にあい、家に着くや、キャロルは息を引き取った。何たる無常、何たる無慈悲であろうか。このことからわかる様に、戦争は近しい人、かけがえのない人を無残にも引き離す。こうした戦争の不条理をこの映画は伝えたかったのではないか。幸せな日常生活が一転して地獄図と化する、そうしたことが続いていいものか、
そうしたやりきれない思いと怒りがほぼ全壊した教会に集った生存者の内にふつふつと湧きあがり、こうした困難と試練を乗り越える決意となるとともに、各々に改めて戦争の無意味さ、愚劣さを知らしめた。

細谷久行