劇場公開日 1987年4月25日

「幸せを求める姿を見つめる温かな視線」緑の光線 penさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0幸せを求める姿を見つめる温かな視線

2025年4月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

見ていて少し息苦しくなるような描写が続きます。

例えば、太陽降り注ぐ明るい浜辺で、一人本を読んでいるデルフィーヌ。
波の音に混じって聞こえるのは、子供の楽しそうな声や、カップルたちの声で、どこか所在なげ。トップレス姿で海から浜辺にあがってきた北欧出身のリサと出会い、二人で休んでいると、二人組の若い移民風の男たちと目が合い、四人で一つのカフェのテーブルを囲むことになりますが、やはり三人の会話についてゆくことができません・・・。

同じように一人旅なのに、男あさりを楽しむと言い切るリサとはやはり違う。一言もしゃべらないでも、私が望んでいるのはそんなことではないのに・・・、いたたまれない感情の動きが、手に取るようにわかります。

しかし、デルフィーヌに対しても、リサに対しても否定的な視線は微塵もなく、違いは違いのままに。ある意味喜劇的なのですが、その笑いは冷笑ではなく、どこか温かく見守る佇まいがあります。なぜならそれぞれのシーンが美しく魅力的に切り取られているから。「海辺のポーリーヌ」で、アンリ・マティスの絵を基軸に色彩設計を試みた手法はここでも生かされていて、赤、白、青のカラー・パレットが効果的に採用されているように感じました。

インタビュー記事で「デルフィーヌは私かもしれない」と語っていましたが、パーティ嫌いや結婚が遅かった点も含め、昔からどこか資質に私と重なる部分を感じていたエリック・ロメール。主人公に注ぐ温かな視線も多分自分自身に向けたものだったのかもしれない。今はそう思います。

ちなみに、この作品の題名ともなっている、ジュール・ベルヌの小説の主人公は、「日没の瞬間に非常に稀な現象として現れる『緑の光線』を見た者は、自分と他人の心のうちを見通せるようになる」との新聞記事を見て、叔父から薦められた相手との結婚を避け、真実の愛を求めて出会った男性とラスト日没を眺めますが、肝心の緑色の光線を確認する直前に、出会った男性の瞳の中に真実の愛をみつける・・・・というロマンチックなストーリーのようです(^_^)。

pen