「特殊メイクに頼らず演技力だけでヴァンパイアを表現したベラ・ルゴシの凄さ」魔人ドラキュラ 盟吉津堂さんの映画レビュー(感想・評価)
特殊メイクに頼らず演技力だけでヴァンパイアを表現したベラ・ルゴシの凄さ
ドラキュラ伯爵といえば、黒髪をオールバックに撫でつけ、高い襟を立てた黒マントを羽織って美女の生き血を吸うジェントルマンのヴァンパイアである。
この誰でも知ってるドラキュラのイメージを世界的に広めた伝説的ホラー作品。
本作より前にドラキュラ映画というのがなかったわけではない。
有名な作品としてはサイレント時代にドイツの監督F・W・ムルナウが撮った『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)がある。
この作品ではドラキュラがオルロック伯爵という名前に変えられていたりするけれど、ヴァンパイア映画の元祖として今も多くのホラーファンに愛されている、これまた伝説的作品である(著作権者に無断で作ったため裁判沙汰になっちゃったいわくつきの作品でもある)。
ただ、前述したようにドラキュラの定番のイメージというものを決定付けたのは間違いなく本作であり、本作もヴァンパイア映画の元祖とまでは言えなくても、ドラキュラ映画の元祖とは十分言っていい作品だと思う。
とは言うものの、ドラキュラ定番の黒髪オールバックに黒マントというスタイルはこの映画が作られる前に既に演劇の世界でほぼ確立されていたようである。
当時、ブラム・ストーカーの小説『吸血鬼ドラキュラ』は舞台化されて人気を博しており、その舞台化の過程においてドラキュラのスタイルは舞台芸人のマジシャンの扮装を参考にして形作られていったらしい。
特に印象的なあの高い襟の黒マントは、Wikipediaの「吸血鬼」の頃目によれば、舞台上でドラキュラが消える演出のために導入されたものだという。
舞台芸人のマジシャンの扮装を参考にしていたと言われると、急にあのドラキュラのミステリアスなスタイルがB級チックなものに見えてきてしまうけれど、ある意味そういう大衆受けしやすい、わかりやすいスタイルをしていたからこそドラキュラは世界的なキャラクターになり得たのだと言えるだろう。
ドラキュラの定番スタイルは本作でほぼ完成されたと言っていいのだけれど、現代の我々が持つイメージと大きく異なる部分もあって、本作のドラキュラにはヴァンパイアの最大の特徴である二本の尖った犬歯がないのである。尖った爪とか尖った耳といった特殊メイクも一切ない。
いくら30年代初頭といってもハリウッドでそのくらいの特殊メイクができないわけがない。事実、ドイツ作品とはいえ20年代初頭に作られた『吸血鬼ノスフェラトゥ』のオルロック伯爵は尖った牙(犬歯ではなく門歯だけど)や爪や耳を持っている。
本作でドラキュラを演じたベラ・ルゴシがどうも牙を着けるのを嫌がったみたいで、ドラキュラの尖った牙は、ベラ・ルゴシと並び称されるもう一人のドラキュラ俳優クリストファー・リーが主演した『吸血鬼ドラキュラ』(1958)まで待たねばならないのである。
ドラキュラに牙がないというのも残念なのだけれどさらに残念なのが、ドラキュラが美女の首に噛みつくシーンとか、ドラキュラの心臓に杭を打ち込むシーンといった、一番の見せ場といっていいところを、ご想像にお任せします、という感じで映像を見せてくれない点である。
エロティックな描写や残酷描写に対して検閲が厳しかったせいだと思われるけれど、現代人の感覚からすると、そこ見せないでどうする!と思わざるを得ない(笑)。
トーキー黎明期の作品のため、怖い場面を盛り上げるBGMが一切ないのも寂しい。
そんな感じで本作には色々と不満な点も多いのだけれど、それらを補って余りあるのがベラ・ルゴシの堂々たる演技である。
ハンガリーの舞台俳優出身だったベラ・ルゴシは当時既にブロードウェイの舞台でドラキュラを演じて人気を博していたという。
舞台俳優として培われたいささか大仰な芝居も、ハンガリー出身ゆえの訛りのある英語も、東欧の貴族というドラキュラのキャラクターにとってはふさわしいものであり、さらに彼は端正な顔立ちと上品なチャーミングさを兼ね備えていた。
かくしてここに女性を怪しく魅了する官能的な怪物という空前絶後のキャラクターが誕生したのである。
本作公開後、ベラ・ルゴシのもとには世界中の女性ファンからファンレターが殺到したそうである。
尖った牙とか爪とか、そういった特殊メイクに一切頼らず、獲物である女性をじっと見つめる、その目力だけでヴァンパイアという魔性の存在を表現したベラ・ルゴシの圧倒的な演技力は今見ても全く色褪せてない。
さらに、ドラキュラの哀れな下僕となるレンフィールドというイギリス人弁護士が登場するのだけれど、このレンフィールドを演じたドワイト・フライという俳優が鬼気迫る強烈な演技で観るものを圧倒する。
ドラキュラを演じたベラ・ルゴシとレンフィールドを演じたドワイト・フライ。この二人の圧倒的な怪演を観るだけでも、本作は観る価値があると言える。
ヴァンパイア映画好きなら一度は観ておくべき必修科目のような作品!
…ではあるのだけれど、明らかに糸で釣られている作り物のコウモリがフヨフヨ飛ぶシーンが結構あって、そのたびに一気に醒めてしまうので(笑)、⭐︎半分マイナス。
