「小粒版『ガープの世界』」ホテル・ニューハンプシャー 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
小粒版『ガープの世界』
あっちこっちに散逸した物語の筋が途方もなく大きな愛によって不思議と大団円へ導かれるという構造はジョン・アーヴィングに特有のものであり、したがってここを再現できるかどうかがアーヴィング映像化作品としての価値を大きく左右するわけだが、本作はけっこううまいことやっていたと思う。
ただ、アーヴィングの映像化作品は本作の数年前にジョージ・ロイ・ヒルが監督した『ガープの世界』が構成的にも技法的にも大傑作であったため、それと比べてしまうと幾分か地味な印象。というか構成や技法もかなり強く『ガープ』が意識されている気がする。
死んだはずの家族が談笑し合うカットの裏面で「それでも僕たちは生きていかなくちゃいけない」と言って物語を締め括ったのはかなり好きだった。希望と絶望の表裏一体性を戯画的に描き出すスタイルはアーヴィング文学の一つの特徴であり、ここのカットはそれをうまく映像の形式に落とし込めていたと思う。
そういえば相米慎二『お引越し』のエンディングも、全ての時空が混じり合った亜空間で主人公が映画内で交流のあった知人や友人や家族と再び交流するというものだったけど、もしかしたらこれが元ネタなのかもしれない。あったかもしれない世界を夢や想像の中に描き出すことで現実の自分が少しでも前向きに生きていくことができるなら、それは決して悪いことじゃないと思う。
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