「ポジティブであれ 自らの中の神を信じてベストを尽くせ 生きる力が湧いてくる映画です」ポセイドン・アドベンチャー(1972) あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
ポジティブであれ 自らの中の神を信じてベストを尽くせ 生きる力が湧いてくる映画です
名作中の名作
パニック映画のジャンルの始祖として有名ですが、そのジャンルを越えて名作です
何度観ても飽きないしその度に面白く感動します
豪華客船ポセイドン号
といっても老朽化で最後の航海の設定で、乗客もあのタイタニック号みたいな上流階級の人は乗ってません
何しろディナーの船長のテーブルに普通の夫婦が同席してるくらいの庶民派クルーズです
冒頭の船長と船主代行とのやり取りは史実のタイタニックのモチーフで、あの映画タイタニックでも同様のシーンがあります
津波で転覆するスペクタクルシーンは圧巻で、映画タイタニックで、沈没時に船尾が高く持ち上がるシーンは本作のものをかなり参考にしているのだと、改めて観ると良く分かります
今のどうせCGでしょ的なものでない、嘘のない素晴らしいシーンです
爆発が起こり大量の水が押し寄せる時の人々の逃げ惑うシーンは本当にパニックを起こしている顔と逃げ方です
流石はアーウィン・アレンです
実質的には彼の作品と言って良いのかも知れません
ジーン・ハックマンは主人公の破天荒な牧師を演じます
フレンチコネクションとかの役柄のイメージとは違う清く正しい人という設定なのですが、強引にでも突き進むという点では説得力あります
しかし本作を名作たらしめているのは、そこにもう一人素晴らしい演技の役者がいるからです
それはアーネスト・ボーグナイン!
NY市警の警部補役、元娼婦の妻と新婚旅行に来ているという設定です
刑事ではなく恐らく分署のチーフという設定ではないかと思います
彼がジーン・ハックマンとやりあうシーンは、迫力があり見物です
さらにそれだけでなく、妻にやり込められたり、単独で様々な表情を現すところは名優だと感嘆することでしょう
その二人の名優だけでなく、いい演技をする役者が脇を固めており、個々の活躍の場面をつくる良い脚本がそれをひきたてています
老夫婦の太ったおばあちゃん役のシェリー・ウィンタースは心に特に残ります
その他にも見せ場のあるキャラがいてその演技も良いのです
大きな船は人間社会そのものです
それが転覆した時の人間はどうあるべきかがテーマだと思います
様々なリーダーがいます
少しの可能性があれば積極的に行動し挑戦するリーダー
慎重に助けを持つリーダー
間違った判断に固執するリーダー
そしてリーダーでないものも様々です
リーダーシップを取れないのに批判だけをするもの
リーダーに従うけれど盲目的に多数の側に従うもの
自分の力が発揮できるときは率先して力になろうとするもの
人間社会の縮図が示されます
ポセイドン号の目的地は原作ではどうか分かりませんが本作ではイスラエルのようです
劇中では老夫婦がイスラエルに着いたら孫に会えると話し、老いた夫はモーゼが十戒を神から授けられた山のパッケージツアーに参加したいと言います
主人公の牧師は約束の地へ向かうモーゼのように、彼を信じるメンバーを率い、転覆し沈もうする客船の内部をさ迷います
神は様々な試練を与えそれでもなお神を信じた者だけを約束の地に辿り着かせるのです
そして約束の地の目前についても、先住民が住んでおり、神が約束したからと言っても、その地は戦って勝ち取るほかないのです
神を信じて戦った者にのみ与えられるのです
このアナロジーが物語の骨格にあるからこそ、凡百のパニック映画にはない深みと味わいがあるのだと思います
それが本作の成功後に雨後の筍のように粗製乱造されたパニック映画にないポイントなのです
アーウィン・アレン自身の次回作である、あの成功したタワーリングインフェルノにも、発生した恐るべき困難に対して人はどう立ち向かうべきであるのかというテーマ性は見られ無いのです
如何に本作のテーマと脚本が優れているかが分かります
ポジティブであれ
自らの中の神を信じてベストを尽くせ
生きる力が湧いてくる映画です
劇中、大宴会場の年越しパーティーの準備中に生バンドのリハーサルで歌われるのが大ヒットした主題歌モーニングアフターです
劇中歌っているのは女優さんですから吹き替えだと思われます