劇場公開日 1973年3月17日

「アメリカ的「神は死んだ」」ポセイドン・アドベンチャー(1972) とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0アメリカ的「神は死んだ」

2018年5月1日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

怖い

興奮

「とにかく頼れるのは、自分の意志と行動力!」って、「アメリカ イズ No.1!」と言っていた頃の、かつ、今アメリカがこうでありたいという基本的な発想のアメリカイムズを明確に表現している。

「えっ!?こうくるの?」という展開。
 もちろん、脱出劇だけあって、一難去ってまた一難。その展開には手に汗握るけれど、まあ、最後には助かるんだよねとどこか楽観視していた安心感を吹き飛ばす展開にびっくり。
 その意思を引き継ぐのは当然あの人だろうが、その言葉に重い腰をあげるかってところもツボ。

ツッコミどころはたくさんある。
 船の乗組員の意見をことごとく否定するその神父の考えの根拠は?神父が、神父になる前、軍艦に乗ってたとかのエピソードがあれば納得するが、そんなものはない。ただ、教義とか先輩の教えに従わずに自分を貫いて左遷されたエピソードがあるだけ。不安をあおる演出?
 他にも、他にも、あれやこれや…。

とはいえ、映画にくぎ付けになる演出も多数。
 転覆した船の全容を見せないところが、かえって、その選択は正しいのかと、常にハラハラさせる。
 女性が足手まとい気味に描かれている、努力していない人が助かるとかいう人もいたけれど、苦手なことをあんな場で克服するのってどんだけ勇気がいると思っているのだろう?その様子に手を差し伸べる男の姿にも、惚れこんでしまう。
 こちらに迫ってくる津波も迫力満点。飲み込まれるかと思った。
 他にも、逆さになった理容室とかトイレ。緊迫した中の(笑)。
 また、映画は、天と地がひっくり返った構造で、かつ、助かるために船底を目指すというパラドックスがよく評論で語られる。
 加えて、豪華客船に、お金と暇を持て余した富裕層だけでなく、時代的に飛行機より安いのだろうが、現場を走り回る刑事と元娼婦のカップル。しかもこのカップルは、大みそかのカウントダウンという一大イベントの時に、船長のテーブルに招待されているというところにも、アメリカの下剋上的発想が盛り込まれてて面白い。しかも演じているのが、貴族の血を引くボーグナン氏!

危難を避けてどこに逃げるか、誘導するか。
 大川小学校の例のごとく、東日本大震災等の危難を経験した人なら、気安く語れるものではない。どの人にも他人事ではないのではなかろうか。

パニック映画の古典にして色あせない名作。
脱出劇としての面白さは言うまでもない。

でも、それだけではなく、

ロゴの、妻とのエピソードの時の表情が実に味わい深い。

そして、上記に「神は死んだ」と書いたが、
もう一人の神父の生きざまが心から離れない。
自分の心に従って、弱きものの傍にあり続けたあの神父。私にそんなことができるだろうか。

外にいる神は死んだのだろう。
でも、一人一人の内なる神について考えてしまう。
だから、私にとっていつまでも心に残る映画となった。

とみいじょん