劇場公開日 1997年5月10日

「少年たちの夢と大人」フープ・ドリームス かせさんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0少年たちの夢と大人

2024年7月22日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

怖い

知的

二人のバスケ少年の高校4年間を丹念に追い、世界中で大ヒットしたドキュメンタリー映画。
アメリカの「死ぬまでに見るべきドキュメンタリー50選」で第1位獲得。

【ストーリー】
1987年、シカゴ。
ウィリアム・ゲイツとアーサー・エイジーは、集合住宅に住む14歳の少年。
二人はバスケ好きの仲間たちと、建物前のプレイグラウンド(バスケコート)で、いつも遊んでいた。
二人が夢見るのは、スポットライトかがやくNBAのコート。
二人は地元高校バスケの名門、聖ジョセフ高校スカウトの目にとまる。
身体能力の高いウィリアムは1年目から大活躍し、ケーブルテレビでは同校出身のスター選手、かのアイゼアー・トーマスの再来とまで持ちあげられる。
だがヒザを壊してしまい、2年目以降はケガに苦しむキャリアとなってしまう。
一方アーサーは授業料が払えず退学となり、近所の公立マーシャル・メトロ高校にすすむ。
そこは黒人の子ばかりが通う学校で、登校時にボディチェックがあるような地域。
だけどアーサーはそこで生き生きとバスケットをできるようになり、ついにチームの主力となる。

二人の少年の、栄光と挫折を撮ったドキュメンタリー。
と思いきや、彼らを翻弄する大人たちの残酷さが際立って撮られてます。
まず父母をはじめとした家族。
ウィリアムの父親はいっぱしの言葉を吐くも、気がついたら薬物中毒で治療施設送りに。
兄のカーティス(シャック似)も優秀なプレイヤーだったのに、ワガママがすぎて大学を中退になってます。
アーサーの母親シーラは、授業料の半額免除をなかったかのように言います。
スカウトは肉屋のように彼らを見定め、甘言つらねるばかり。
ヘッドコーチは手を回してくれるも、それも限界がありますし、練習やプレー中は悪罵をぶつけてコキ使います。
闘争心を煽ろうと、中身のないことをほえるテレビの解説者のうすっぺらな姿。
彼らは個人個人ではそれなりに善良ですが、お互いに理解しあわない立場にいるのです。

あのニックスおじさんことスパイク・リー監督も登場してます。
栄光も挫折もよく知るリーは、有望な高校生プレイヤーを集めた「NIKE・オールアメリカンキャンプ」で、強い調子でドラッグやスカウト連中への警鐘の言葉を送ります。
アメリカでは高校や大学バスケが、甲子園的な人気を博しており、人気選手は高校生で早くもスターあつかいされて、めちゃくちゃ調子に乗るんですね。
そんな彼らでも、ビッグマネーをつかむまでは貧困で、バイトでもしなければお金がなく、売人からこづかいをもらってシューズを買うありさま。
貧困で犯罪の多い地域に育った彼らは、大人たちが言うような、勉強で成りあがる人生を想像できない。
語り口が淡々としていますので見やすいのですが、上昇以外の逃げ道を考えない彼らは、とても危うい。
自分の同年代の頃を思いだしてみても、無謀なことばっかり考えて大人を困らせていたので、彼らを愚かとは笑えません。
環境って大事だなあ。

それでも家族といるとき、バスケをしているときの彼らはのびのびとしていて幸せそうで、そこだけは救われます。
アメリカの、今なおつづく成功と挫折の上に立つ超巨大スポーツビジネスの問題点とその暴露。
2時間49分。
重い長編です。

かせさん