ひとりで生きるのレビュー・感想・評価
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「行ってみたいなよそのくに」日本語でしかわからないこの箇所を敢えて選ぶ皮肉の妙
2年前の前作と比べて、フランス資本が入ったからか、ビジュアルが決まっていて、編集も荒削りでなく、音楽が流れる時間も増えたように感じた(イタリア民謡マリアマリなど)。要は作品が洗練されたということ。
とはいえ描いている内容は前作以上に貧困、インモラル、狂気であり、洗練というのはおかしいかもしれないが。
反面、前作の不器用ながらも、原石のような無垢な感覚は失われてしまった。
好みの問題だが、私は本作の方が気に入った。
ラストに至る描写がとにかくすごい!
ガリーヤもワーリャもママもブタのマーシャも隣人母娘もヤマモトも皆去ってしまった。まさに「ひとりで生き」ていくしかない。ぼろぼろの鉄橋の上を盲目で杖つきながら歩く危うさで。
最後、もがきながら必死で泳ぐワレルカの孤独感、寂寥感が半端ない。
久々に人の温かみがとても恋しくなった映画である。
ワレルカよ どこへ行く 行く手に拡がる五里霧中の世界
ロシア極東を舞台に展開する 貧しき悪童少年の物語『動くな、死ね、甦れ!』の続篇です。前作で炭鉱と強制収容所の町 スーチャンの少年少女を演じたパーベル•ナザーロフとディナーラ•ドルカーロラは引き続いてこの映画でもストーリーを引っ張ってゆく役割を担います(ただし、ドルカーロラは今回は前作ヒロイン ガリーヤの妹ワーリャ役にて出演)。
前作とこの続篇の間には公開年にして2年の開きがある(1989年と1991年)のですが、思春期の少年少女にはこの2年の月日は大きかったようです。主人公の悪童 ワレルカを演じるナザーロフは前作では日本流に言うと小学校6年か中学1年ぐらいの感じだったんですが、本作では、男性ならほぼすべて、女性でも男の子を育てた経験のある方ならわかると思われる、いわゆる声変わりの時期にありまして、背も少し伸びております。主演のふたりが2年分だけ大人に近づいたというのはかなりの意味を持っていたみたいで、前作にあったふたりの間の抒情味みたいなものが本作ではあまり感じられませんでした。やはり、前作の『動くな、死ね、甦れ!』は成長途上にある少年少女のある一瞬を切り取ってみせたということで奇跡の一本だったのかもしれません。本作も健闘しているとは思いますが、前作には及ばないという印象を持ちました。
収容所にいる旧日本兵の捕虜も本作ではそのうちひとりに「ヤマモト」という役名がつきました。その捕虜たち、前作では民謡を歌っていることが多かったのですが、今回は小学唱歌が多くなります。
🎵カラス なぜ鳴くの
とか、
🎵海は広いな 大きいな
とか、なんですけど、面白いのは唱歌『うみ』のほうで、上記の箇所を歌った後、歌詞をとばして、いきなり
🎵行ってみたいな よその国
と、歌います。子供の頃に本当によその国に行ってみたかったかどうかはともかくとして、「よその国」の強制収容所の生活はどうですか、ヤマモトさん、と尋ねてみたくなって、哀しい気持ちに襲われます。で、ヤマモトさん、日本に帰国できるようになったみたいですけど、実は帰国せずロシアに残ったという話も流れてきて、話の虚実が霧の中に包まれてゆきます。
そう、霧の中。物語が進行してゆくにつれて、話の行方が霧の中に入ってゆくような感覚に襲われました。けっこう幻想的なシーンも多くなります。この「五里霧中感」はだんだんと孤独になってゆく主人公ワレルカの心情を表しているのかもしれません。
霧の中のワレルカはこれからどこに行くのでしょう……
夢見るような恐ろしさ
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