バグダッド・カフェのレビュー・感想・評価
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主人公・ジャスミンの描き方が良くも悪くも印象的。
○作品全体
脈略のないシチュエーションのファーストカットから始まり、ダッチアングル、短いカット割り、イマジナリーライン無視のカメラ位置。鳴り響くラジオの音楽も相まって混乱と無秩序な世界から始まる。
この演出がジャスミンにとって不協和音の世界であるというのは、作品後半の気を衒おうとしない、落ち着いたカメラワークが証左だと思う。ただ、ジャスミンを「空き缶を車に持ち込み、夫の言うことに耳を貸さずに果てしない道をヒールで歩いていく謎大き女性」という、突拍子もない登場人物に仕立てているのは首をかしげる。作品後半の周りが巻き込まれるほどの愛嬌と親しみをもったジャスミンと繋がる部分があまりにも少ない。作中にジャスミンが2人いるような違和感を覚えた。
自己表現を言葉と行動で全開に行うジャスミンと、無口でブラックボックスの多いジャスミンの間に奇抜な映像演出を挟む必要が正直無いと思う。ジャスミンの持つ魅力が夫の前では発揮できなかったから「2人のジャスミン」がいたのだ、と解釈しようとしたが、それであれば夫との関係性にもっと踏み込んで「今までのジャスミン」に触れるべきだし、やはり腑に落ちない。
ただ、冒頭の演出と物語が進めば進むほど強くなる違和感が「この物語はどこへ行くのか」という好奇心につながっていたことも事実だ。そしてジャスミンという登場人物の真の姿はどこにあるのかという興味、言い換えればジャスミンのキャラクター力が物語に推進力を与えていた、というのも間違いがない。
ただ、その好奇心が「主人公が新たなコミュニティの中心となり、ポジティブな空間へと変える」という、既視感ある描写に着地してしまったことが、自分の中で残念、と思ってしまったのも事実だし、それが自分の感想の中で一番大きい。
○カメラワークとか
・画面の彩度や色味を変える演出は面白くはあったけど、バグダッドカフェとその周りの空気を伝えるのであれば素の淡い褐色と青空で十分だなあと感じた。
黄色いポット
あのドイツ人夫婦はなんでケンカしてたんだろう。
そこが謎。
汗をかきながらもスーツを脱がないジャスミン。
キチンとした性格。
わめいてばかりでガサツなブレンダ。
真逆である。
そんなジャスミンがカフェをどんどん片付け、きれいにしていくところはスカッとした。
ブレンダはめっちゃ怒ってたけど。笑
旦那の荷物に入っていたマジックセット。
どんどん上達していくジャスミン。
ちょっと出来過ぎ?
それと少し長く感じたかな。
ビザが切れて帰った後、どうやってまた戻って来るとは思わなかったので。
最後まで可愛い黄色いポットが作品に華を添えていた。
かりそめの砂漠のオアシス
作品としての繋がりはないのだが、アメリカの砂漠地帯の映像を観てヴィム・ヴェンダースの『パリ、テキサス』を思い出した。まるで記憶を失ったかのように無口で砂漠地帯を黙々と歩き続けるトラヴィスという男。彼にはある目的があるのだが、ほとんど自分のことを喋らないため観客には彼の真意が分からない。
この映画に登場するジャスミンというドイツからの旅行者も、トラヴィスほど無口ではないにせよ、やはり自身のことは喋らないため観客には彼女の目的が何なのか見えてこない。
冒頭、彼女は車の中で夫と喧嘩をし、そのまま荷物を持って飛び出してしまう。
そして彼女が辿り着いたのは砂漠の真ん中にあるバグダッドカフェというさびれたダイナー兼モーテル。
行く宛のない彼女はいつまでという期限も設けず宿泊を決める。
この映画の面白さはこのバグダッドカフェに集う様々な人間模様にある。
まずはジャスミンとは正反対に常にイライラし、不満をぶちまけ続ける女主人のブレンダ。
彼女の夫サルは買い物ひとつも満足に出来ない甲斐性なしで、ブレンダに罵られた挙げ句家を飛び出してしまう。
が、彼はこっそり車中で双眼鏡を手に彼女のことを見守り続けるのだ。
息子のサロモは注意されても店の中でピアノを弾き続ける頑固者で、母親の分からない赤ん坊の父親でもある。
娘のフィリスは店の手伝いもせず遊び歩いている。
その他に常に脱力系の店員カヘンガ、トレーラーハウスで絵を描いて生活しているコックス、モーテルの中で入れ墨師の仕事をしているデビー。
そして中盤からテントを張って住み着くエリックという若者。
ブレンダは最初からジャスミンに好意を抱いていないのだが、彼女の部屋の掃除中に見慣れない道具や男物の衣装を見つけたことから、彼女を危険人物と判断し保安官のアーニーを呼んでしまう。
しかしアーニーはジャスミンのパスポートなどに不審な点は見られないためにそのまま立ち去ってしまう。
一方、少しでも居心地良く生活したいジャスミンは、ブレンダに内緒で店の掃除をするのだが、それがブレンダの逆鱗に触れてしまう。
が、表向きにはつんけんした態度を取るジャスミンだが、実は心の中では感謝をしているのだろう。
フィリスと打ち解け、サロモのピアノを理解し、彼の赤ん坊をあやす彼女に対しても、初めは何様のつもりだと詰めよってしまうブレンダだが、少しずつ彼女への警戒心を解いていっているのが分かる。
ブレンダは一度気を許した人間には、皆家族同然のように接するのだ。
やがてカフェの店員としても働くようになったジャスミンは客前でマジックを披露する。
その腕前はプロ並で、ここで彼女の部屋にあった謎の道具や男物の衣装の意味が分かる。
彼女のマジックを見たさにあらゆる場所から客が集まり、バグダッドカフェは繁盛する。
そしてコックスは彼女をモデルに絵を描き始める。
最初はどこかおどおどして精彩に欠けていたジャスミンが、見違えるように輝いていく姿がとても印象的だった。
しかし夢のような日々は唐突に終わる。
カフェを訪れたアーニーが、ジャスミンのビザが切れていることを指摘したのだ。
元々はジャスミンを追い払うためにブレンダが呼んだアーニーによって、結果的にジャスミンがバグダッドカフェを離れなければならなくなるのが何とも皮肉だった。
ここは砂漠の中のかりそめのオアシスだった。
非現実的に思われる舞台設定だが、そこで描かれる日常はとてもリアルに感じられる。
個人的にはサルが拾ってきたポットがとてもカフェの生活感をうまく演出していると思った。
ローゼンハイムとロゴの入ったこのコーヒー入りのポットは、実はジャスミンの持ち物であり、彼女の夫が車の中から捨てたのだ。
カフェのコーヒーマシンは壊れているため、ジャスミンを連れ戻しに現れた夫にサルはこのポットのコーヒーを差し出す。
夫は満足そうにそのコーヒーを飲むが、コックスはとんでもなくまずいコーヒーだと吐き捨てる。
ジャスミンも店のコーヒーをただの茶色い水と酷評したように、彼女と夫はかなり濃いコーヒーを好んでいたのだ。
新しいコーヒーマシンが来ても、カヘンガがポットでコーヒーを淹れようとしているシーンが印象的だった。
カフェの側にある給水塔、エリックが投げるブーメラン、コックスのトレーラーハウスと、画になるモチーフも多かった。
バグダッドカフェから消えたジャスミンだが、ある人唐突に彼女は戻ってくる。
また夢のような日々が戻ってくるかと思ったが、今度はデビーがカフェを出ていく。
あまりにも仲良くなりすぎたと口にして。
クライマックスはミュージカル仕立てのマジックショーという型破りな展開なのも面白かった。
そしていつまでもジャスミンがカフェで働けるように、コックスが彼女にプロポーズをするシーンで映画は終わる。
彼女の答えが気になるが、この流れから彼女が断ることはないだろう。
ジャスミン役のマリアンネ・ゼーゲブレヒトの個性的な風貌もあって、一度観たら忘れられない名作だ。
コーリング・ユー
カリフォルニア州モハベ砂漠のルート66をスーツケースを引き摺り一人歩くドイツ人女性ジャスミン( ヤスミン )( マリアンネ・ゼーゲブレヒト )が、疲弊し心荒んだ日々を送る女主人ブレンダ( CCH・パウンダー )が経営するバグダッド・カフェを訪れる…。
○○⚪︎○で、バグダッド・カフェを賑わせる事になるとは…でしたが、温かな余韻を残す作品でした。
ジェヴェッタ・スティールの艶のある伸びやかな歌声が、穏やかな心地にさせる … まさにマジック ✨
燃えるような夕焼けが美しい。
NHK-BSを録画にて鑑賞
( ニュー・ディレクターズ・カット版 字幕 )
オバちゃんの桃源郷
「バグダッド・カフェ」の上映当時、私はミニ・シアター作品を鑑賞することが「イケてる」と思っていたティーンエイジャーでした。内容は良く分からないけど鑑賞しただけでオシャレになった様なそんな気持ちにさせてくれた数々の作品。「バグダッド・カフェ」もそのうちの1本。
そして、そんな時が懐かしくて数十年振りに再鑑賞。
フィルムの美しさと気だるい音楽だけが印象に残っていたのですが、中年女の友情と再生を描いたなんとも頼もしい作品だったではありませんか。
モーテルの女主人ブレンダが抱える日常的なイラつきも、ドイツ女性ジャスミンの抱える心の流浪も、自分が人から認められない「疎外感」が原因。立場の違うふたりが互いに互いの人生を認めあった時から、友情が育まれていきます。ブレンダが持っていない大らかさとジャスミンが持てなかった子供。彼女達は、お互い持たないものを通じて喜びを分かちあいます。
ありったけの明るさで周りを照らせば、人は割とどこでもやっていける。相手を認めれば認めるほど、人は互いに優しくなれる。自分を認めれば認めるほど、もっともっと満たされる。色んな人がいるから、人生を補いあえる。そう、私の人生も。
この作品は、中年女を「孤独」や「疎外感」から解放してくれるオバちゃんの桃源郷の様な作品です。
気だるいなかにも、人生の縮図、暖かく描かれ
アメリカ映画では見られない雰囲気を持った映画。ホリーコールのカバーによる、主題歌で有名になりましたが、オリジナルも最高。
主演女優と助演女優の掛け合いが見物。見終わった後、心温まる映画です。
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