とまどいのレビュー・感想・評価
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この感情を、この安らぎを、どうしたらいいのか?まだ名前の付いていない関係性を、とまどいの中に描く
「恋」と呼ぶには理性的すぎ、「友情」と呼ぶには気になりすぎる。その名状しがたい感情と奇妙な関係性を、孤独で裕福な老人と美しい若妻との間に描く、なんとも大人な物語である。いや、大人というよりは、おそらくは身近にもよくあるだろうはずの、だが誰も題材にしたがらない老いらくの恋の物語だ。
特筆すべきは、彼の地フランスでも、恋はセックスと結婚がワンセットで考えられているということだ。いくら自由と深みと安らぎが得られる相手であっても、最初からセックスと結婚が排除されている関係は、恋とは言えないのである(少なくとも老人はそう思っている)。だからこそ、2人はその手前でひたすら逡巡し、「とまどう」のだ。この感情を、この安らぎを、どうしたらいいのか?と。
若妻に想いを寄せるも、セックスと結婚という武器を持たない老人は無力だ。戦わずして負け続け、ひとり台所でミルクを飲み、明け方のカフェで時間をつぶす姿がなんとも切ない。
若妻は結婚の壁に敗れる。夫との離婚、同棲を迫る恋人、そして突然寄りを戻した老人の妻に…と3度も。結婚という枠にからみとられていく人々を背に颯爽と歩いていく彼女の姿は凛としているが、どこか寂しげでもある。
恋人ではないが、ただの友人でもなく、ましてや愛人でもない。まだ命名されていないこの2人の関係性に、誰か早く名前をつけてあげて欲しいと思うほどに、慕い合う2人はこの上なく愛おしく、素敵であった。
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