「スタンダードサイズのテレビムービーだが、カッシュナー監督の折り目正しい演出と多彩な配役で見ごたえあり!」特攻サンダーボルト作戦 ミラーズさんの映画レビュー(感想・評価)
スタンダードサイズのテレビムービーだが、カッシュナー監督の折り目正しい演出と多彩な配役で見ごたえあり!
続編としてもシリーズ内でも傑出した出来の『スターウォーズ帝国の逆襲』で監督してその名が知られるアービン・カッシュナー監督だが帝国以前の作品は観ていないので今回レンタルで鑑賞。
実録風のタッチで始まり、乗客の様子や乗り込んでハイジャック犯が判るまでの描写も手堅く演出されており引きつけられる。
特に前半はハイジャックされた機内とイスラエル政府など状況を交互に見せる部分もじっくりと腰を据えて見られる。最近の映画のテンポとカット割に慣れているとスローに感じかもですが。
映画ポスターなどメインビジュアルで主演に見えるチャールズ・ブロンソンは、かなり後に素っ気なく登場するのリアルでいい。
ちなみにキャストクレジットでは最後の特別枠で今回は、珍しく軍人のブロンソンが直接的に人を殺さないのは、『おませなツインキー』以来では?と思うけどあの作品もブロンソンと女子高生のラブコメだと?と驚嘆するオーパーツな作品で新鮮?
普段の主演の映画ではいつも1000人くらいブ殺すのに(誇大誇張)
他にもイスラエル首相役のピーター・フィンチや非常になり切れないドイツ人テロリストのホルスト・ブルックスや冷静沈着な乗客のマーティン・バルサムなどのキャストも豪華で魅力的。
バルサムと仲良くなり信頼される金髪少女が、アレ?何処かで見たな?と思ったらジョン・カーペンター監督のクールな傑作『要塞警察』(ハワード・ホークスとゾンビ物をミックスした映画)で、ストリートギャングにいきなり惨殺される女の子役のキム・リチャーズだった。
要塞警察のちょっと前にディズニー映画の主演をした有名子役のキム・リチャーズを血塗れで殺すのは、結構思い切った起用だなぁと思うが、こんな子供に手を掛ける極悪非道なギャングならいくら殺しても観客の心が痛まないカーペンター監督の配慮かな。(S気が強いだけかも)
かわいいフリして人を食べる、わたし「待つわ」なウガンダ共和国の人食い大統領アミンを、ヤフェット・コットーが食えない道化的独裁者として演じているのも面白い。
当時新人だった若き日のジェームズ・ウッズもイスラエルの兵士役で印象的。
この頃のウッズは、鋭さより線の細いちょっと神経質に見えるが優秀な青年兵士を好演。
少し後に主演した現役警官作家で有名なジョセフ・ウォンボー原作(フライシャーのセンチュリオンの原作者)の『オニオン・フィールド』で、警察官を殺して刑務所に入ったが勉強してムショ内の法律相談役になるチンピラ役あたりから、鋭い貫禄も出ていたと記憶してる。
ジェームズ・ウッズは、その前にもジョセフ・ウォンボー原作でロバート・アルドリッチ監督の『クアワイヤー・ボーイズ』にも出演していたが、スターになったあとにジョセフ・ウォンボーを明らかにモデルしたと思う、現役警官作家が組織をリストラされた殺し屋と共に犯罪組織に追い詰める設定が絶縁なラリー・コーエン脚本で活劇職人ジョン・フリン監督の傑作犯罪ミステリー『殺しのベストセラー』でこれまた印象的な殺し屋役を怪演している。
撮影と演出面でも手前と奥にピント合わせる為の可変レンズ(デ・パルマが良く利用)を使いイスラエル首相の苛立ちを象徴するペン先を揺する手元と説明をする官僚をワンカットに収めた場面やブロンソンと上司のジャック・ウォーデン表情を均等に捉えた場面などで効果的に使われている。元は小さなテレビ画面用映画(昔の家庭用テレビは今のような大画面の物は殆ど無い)なのに手を抜かずに映画として撮影している。
予測訓練もリアルで、特殊部隊サイェレット・マトカルの出撃場面時の空港では、音楽と素早く滑空するカメラワークにより一気に映画が躍動感に溢れて戦闘活劇へとギヤが入る演出と構成もお見事。
エンテベ空港にある人質が監禁されているビル内での銃撃戦も地味ながらのリアルなアクションを見せてくれる。特にスティーヴン・マクト扮するヨナタン・ネタニヤフ中佐(実在の人物で前イスラエル首相の兄)が、小型のイスラエル製サブマシンガンのウージーの畳んでいたストックを伸ばしてセレクターをセミオートに切り替えて近距離精密射撃を行う場面は、ガンマニア必見。
それ以外にも印象的なのは、当時の極小国であったイスラエルでは家庭のリビングぐらいの場所で与野党の会議を開催している場面なども興味深い。
当時のフランス首相の補佐官は後の大統領のシラク?
作戦が成功して部隊と人質が母国の空港に帰還する場面なども定番ながらを抑制して演出してありイデオロギーなどあまり感じられない。
ただ、エンテベ空港で別れて現地の病院に入院した人質が行方不明なる件は、実話で重い余韻を残す。
スタンダードサイズのテレビムービーだが、スケールや多彩な豪華キャストを使い、いわゆるモブのキャラの表情までも抑えた、カッシュナー監督の的確で折り目正しい演出が見事な作品でオーソドックスな映画が見たい人にはオススメ。
ちなみにキングレコードのDVDにはテレビ放送時の日本語吹き替え版も付いておりブロンソンには、お馴染み大塚周夫や中村正や安原義人などの名声優が揃っているので音声は、そちらで楽しみながら字幕を表示するとテレビ吹き替え版ではボカされている政治的部分の解釈の違いも判り興味深いです。