「最新作とも繋がる一貫したスコセッシの視点。」ドアをノックするのは誰? 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0最新作とも繋がる一貫したスコセッシの視点。

2023年10月31日
PCから投稿

現在80歳のスコセッシが24歳のときに発表した長編デビュー作。ハーヴェイ・カイテルが演じている主人公はスコセッシの自画像とも言われていて、スコセッシが育ったリトルイタリー界隈のチンピラまがいの若者なのだが、気になる女性に声をかけながらジョン・フォード監督の『捜索者』についてのウンチクを語りまくってしまったり、自分を自嘲的に描いて面白がっているようにも見える。

自主映画のデビュー作なので作りは粗いのだが、地味になりがちな平凡な若者たちの青春物語に、いろんなスタイルを取り入れようとする貪欲さはさすがスコセッシで、才気があふれているのが伝わってくる。

そして映画の終盤で、主人公が恋人に対してどうしようもない失言をしてしまう。旧来のマチズモにとらわれた男が愚かさをさらけ出すような場面であり、考えたらコレ、最新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の主人公の最後のしでかしと非常によく似ている。相手のことを思っているというポーズだが、結局は自分を善人だと思いたいがための去勢を捨てられず、相手も自分も裏切ってしまう。

最近になって見直したのだが、半世紀以上を経てもなおスコセッシは人間の弱さを同じ目線で描いているのだなあと、デビュー作と最新作が一気に繋がる貴重な体験でした。

村山章