天使の涙のレビュー・感想・評価
全9件を表示
カメラワークと構図にこだわった、ドライブ感あふれる作品。
⚪︎作品全体
暗殺者とそのコーディネーター、そして定職のない聾唖者。それぞれが過ごす毎日は、フィクションにおいてそれほど個性的ではない。そしてこれまたありがちな「パートナーの暖かさと孤独の寂しさ」を物語の軸にしており、正直退屈なシーンもあった。
しかし、彼らの日常を映すときのトガッたカメラワークは、アイデアに溢れていてとても良かった。
まず、カメラと人物の距離感が不安定であることに目を惹いた。極端な手前・奥の構図や覗き見るようなカメラ位置、隠れ家の外壁と大通りや電車を映す超広角なレイアウト…シーンやカットごとに印象が全然違うのが面白い。このカメラワークは序盤こそ暴走気味っぽい気がしたけれど、暗殺業や破天荒っぷりが描かれると、その不安定なカメラワークが心象風景とリンクしていることがわかる。
特に暗殺に関わる2人と聾唖であるモウはカメラワークの趣向が異なっていた。前者は影に生きる人物として画面内の影の部分を強調してたり、なめ構図による空間の狭さが活かされていた。一方で後者はドライブ感あふれるカメラワーク。登場人物と近付いたり離れたり、破天荒な行動を退屈に見せない工夫があった。
こうしたカメラの撮り方によって印象を変えるというのが、物語にもリンクしていたのがまた面白かった。
終盤にモウが父を撮影しはじめるが、父はその映像を嬉しそうに見ている。父が亡くなった後は、今度はモウが食い入るように父の生前の姿を見つめる。パートナーを作ることができなかったモウの孤独の強調でもあり、父とモウという、家族としての特別な関係性を印象付けるものでもある。画質の粗いビデオカメラで撮られた、なんの変哲もないファミリービデオは、この二人だからこそ撮れるものだ。なんの変哲もない、非常に見づらい映像なのにグッとくるのは、カメラワークと演出の妙だろう。
本作の魅力であるドライブ感あふれるカメラワークもこれと同じだ。大したストーリーではないが、映し方によって意味や印象は大きく異なるし、見つめていたくなる。
映像を撮る、または見る面白さを感じたいときに見返したい作品だ。
〇カメラワークとか
・鏡の使い方が面白かった。狭い空間で撮れる範囲が限られる中で、画面の左右を広く使う手段として活かされてた。直接人物を映さないからこその色気もあった。
・車のフロントガラスを接写して、そのままカメラを上に持っていき、バックミラー越しに人物を映すっていうカメラワークがかっこよかった。外の景色を映していると思ったら突如後部座席に座る人物が浮かび上がってくる、みたいな演出。
・ラストシーン、トンネルを抜けた後に見えてくる明け方の曇天がとても良かった。一時的な寄り添いによる孤独からの脱却。でも空は狭くて暗い。単純にハッピーエンドを示唆するわけではなく、あくまでも可能性だけを映す。身近にある景色を少しだけドラマチックにするようなラストが良かった。
・ホームビデオに映る父を見返すモウのシーン。父の笑顔を再生と一時停止で見つけようとする演出がすごく良かった。いいタイミングかと思ったら画面にノイズが入ってしまって…というアイデアも素晴らしい。ビデオテープの特性と併せて父の笑顔を見たいというモウの心情も饒舌に語る。
〇その他
・金城武演じるモウ、アクが強くて面白い人物だった。主人公3人のうちの一人っていうのがまた良いバランス。90分モウだけ見させられるのはしんどそう。
・バーで孤独にふけってるシーンとかは少し長尺すぎた気もする。モノローグと行動で孤独を語ってる分、その姿を映しつづけるのは少し退屈だった。曲を聞かせたかったんだろうけど、もう少し見せ方があったような気がする。
・暗殺者のウォンの最後のミッションは無謀なことをわかっててエージェントが依頼したように見えた。エージェントは会ってしまうと冷めてしまうようだし、自身の安全のためにも…みたいな。
・ホームビデオっていう演出は映されるタイミング、ビデオの画質、被写体の表情とかですごく心に刺さる演出になるなあと思った。『mid90s』とか『カウボーイビバップ』とか。
美しすぎるラストシーン
現実味のない殺し屋とエージェント、金城武の訳わからん仕事の設定が、気にならなくはないが、それよりも美しい映像、音楽に合わせた、それぞれのセリフが素晴らしい。
金城のお父さんのステーキを焼いてる笑顔、最後の店での金城とミッシェルリーの微笑みが大好き。
刹那的なラストシーンがいつまでも心に残る。
恋する香港
恋に落ちた若者達をスタイリッシュな映像と楽曲で描く。
彼らの呟く言葉と独特な世界観に引き込まれた。
金城武、まさかの共演 🐖
ー人生一寸先は闇
ー殺し屋は保険に入れるんだろうか
ー彼女は人生の一部になっていた
BS松竹東急を録画にて鑑賞 (字幕)
ONLY YOU
エンディング曲が象徴するように、独特の斜め上を行くセンス感が冴え渡る作品。
ストーリーで納得させる内容ではなく、兎に角映像美、撮影技法、カット毎のシズル感等々、ハイセンスでスクリーンから訴えかける映画は、ウォン・カーウァイ監督唯一無二といってよい代表的アジア作品であろう。
登場人物の奇抜な設定と、群像劇からそれらのストーリーを混ぜ合わせる構成も、その一歩間違えば駄作になる危険性の"キワ"を熟知しての映像を作り得る天才であると絶賛する。鑑賞後の心境は決してストーリーには向かわない。この感性にやられてしまうのではないだろうか。映画のマジシャンである。
恋する人は天使さ
"ウォン・カーウァイ 4K" で鑑賞(2K上映・字幕)
ウォン・カーウァイ監督作品、今回が初鑑賞でした。
アップを多用するカメラワーク、シャッタースピードを落として捉えられた香港の街、時折挟まれるモノクロ映像など、おしゃれで素敵で幻想的で、まさに「芸術」だなと思いました。
ひとつの映画の中にふたつの物語があり、それらが殆ど関わり合い無く進行して最後に漸く、ちょっと交わる…
斬新な語り口だなと思いました。
殺し屋とエージェント、金髪女性との三角関係と切ない別れを、際どく淡く描いていたパートも良かったですが、個人的にはモウ(金城武)のパートが好きだなぁ、と…
遅い初恋と失恋(心情を髪色の変化で描いた手法、ステキ過ぎる。それが撮影時の偶然の産物を使った演出と云うのもすごい)を経験したモウが、父親との突然の別れによって、自分がもう子供ではいられないと悟るシーンが感動的でした。
ふたつのパートに通底していたのは、恋は純粋すぎる心の動きで、誰でも天使みたくなってしまう、と云うことかと…
だからこそ、男も女も恋心の前では驚くほどピュアになり、嬉しさであれ悲しみであれ、流す涙は美しく頬を伝う…
モウとエージェントがバイクにふたり乗りで疾走し、トンネルを抜けてふと覗いた空の解放感がとても印象的でした。
恋は人を前進させ、生き方そのものまで変えてしまう、とてつもない力を持った感情なのだと、改めて感じました。
冷たくて、悲しくて、孤独なシーンが多かったのだけれど、モウがお父さ...
冷たくて、悲しくて、孤独なシーンが多かったのだけれど、モウがお父さんを写したへたくそなホームビデオがとても暖かった、
毎日大勢の人とすれ違うなかで、偶然、に、関係性を持った人たちの物語。みんな傷ついたけれど、モウがものすごい速度で走るバイクに乗せて、きっと、またちがうあした、に連れてってくれる。もう、会うことはないかもしれないし、会っても覚えていないかもしれない。だけれど、そのとき、そこにあったふたりの空気、温度はほんもの、なのだ、
ウォンカーウァイ4Kレストア版、これにて5作品見終わり。どの映画も、映像として、とてもすきだった。あと、ずっと耳から離れてくれない音楽たち、
金城武の演技
「恋する惑星」のレビューで対になっていると読んだのでこちらも初観賞。喋れない金城武の奇矯な行動が最初はウザく感じられたが、父親とのやり取りのあたりから次第に愛おしく思えていた。(モノローグはあるものの)身体表現だけで気持ちが伝わってくるのは、演技とカメラの切り取りのうまさだろう。
殺し屋のエピソードとのクロスオーバーや「恋する…」からの引用具合もいい塩梅で、両作合わせて作品世界での群像劇感が醸し出されている。個人的にはストーリーのまとまりはこちらが上だが、好みは初見のインパクト込みで「恋する…」の方かな。
冒頭の殺し屋と女のツーショットに、最初期の「水○どうでしょう」の前枠後枠みを感じて笑ってしまった。(もちろん逆で、WKWのオシャレ感が時代を席巻していたのだろう)
ネオンの香港で暮らす5人の若者たち
5人の若者たちの視点を描いたこの映画。
殺し屋(レオン・ライ)、エージェント、失恋女、金髪女、そして口の聞けない男(金城武)。
それぞれが交錯する中、芽生え始めた恋。 ラストの金城さんと失恋女のバイクシーンが切なく感じました。
ウォン・カーワイのゴールド
スタイリッシュでピュアな作品だ。
恋をすると女は皆、天使になるのだろうか。
女たちの恋する心は天使のようにピュア。
殺しのエージェントを稼業にしていても、天使のような金のクルクルパーマの派手な頭で遊び人を気取っていても。
黒髪の平凡な女が人を信じすぎて金髪アレンに彼氏を横取りされても。
3人とも簡単には諦めきれない位に一途。
そして、恋を失い天使は涙を流す。
人の店を勝手に開けて夜中に営業する変な稼業をしているモウの遅れ馳せの恋もとても純粋だ。
黒髪の彼女を乗せてサッカー場までバイクでひとっ飛び。試合が終わって照明が落ちるまでの短い恋。
モウにアイスクリームを大量に食べさせられたりする毎回ターゲットにされるヒゲ男は気の毒だが、めちゃくちゃコミカル。大家族でアイスクリーム屋の車に乗って疾走するシーンが素敵だ。
モウが豚の背中に乗ってマッサージするシーンも。
何よりモウとお父さんとのさり気ない日常が微笑ましい。モウが撮ったホームビデオの映像はグラグラ揺れてぶれまくっているけど、ビデオの中のお父さんはとてもいい笑顔だ。ブレてるから余計に素敵なんだ。
モウにビデオの楽しさを教えてくれた居酒屋の斉藤さんありがとう!
モウはお父さんの前ではいくつになっても子供だけど、遺品を整理していて初めて大人だったと気がついたところも好き。
金城武は口がきけない設定になった分、恋する惑星よりも面白い演技をしている。
パイナップルの缶詰の食べ過ぎの設定や、平凡だった女の子が変身してスチュワーデスの制服で現れた時にはくすりとさせられた。
エージェントの女は強そうに見えてもやっぱり女。
モウに送って貰うバイクの背中で刹那の温もりを感じる。この終わり方がめちゃくちゃおしゃれだなー。
エンドロールが終わっても、OnlyYouが耳について離れない。
全9件を表示