劇場公開日 2023年2月17日

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「何故か記憶に残る」田園詩 penさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5何故か記憶に残る

2023年11月8日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

昔「落葉」を岩波ホールで鑑賞したことがあるのですが、そのときは終始たんたんとした展開だったためか、半分くらい寝てしまった遠い記憶があります。でも何か画面に漂う温かな雰囲気のようなものや、ときおりはっとするような美しいショットもあったためか、記憶に残る作品となってました。で、今回オタール・イオセリアーニ監督、私にとって二作目の鑑賞です。

沢山の牛、夜明けとともにけたたましい声で鳴く鶏、コルホーズの集団農場に向かうトラックの荷台に芋洗い状態で乗る家族や村の仲間、宴会で酒が入ってつまらない理由で「侮辱した」とどなりちらす男の声、急な土砂降りで沢山の布団を取り込む女達の明るい声、少女と楽団の若者たちとのゲーム遊び、少し音の外れたピアノ連弾遊びではじける笑い声、そして楽団の奏でるバロック音楽の響き。

それらの音や映像が、少女の一夏の少し切ない感情を帯びた心象風景の一部となって、やはり今回も脳裏に焼き付いています。

自身の作品を、映画ではなくシネマト・グラフと呼んだロベール・ブレッソン同様、ひとつひとつの画面が、一枚の優れた写真のように美しい画面になっているように思いましたが、鋭利な刃物のような切れ味のある禁欲的なブレッソンの作品とは対照的に、どこか滑稽なおかしみをたたえていて、そこがまた良い味わいなのだと思いました。

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