「ノルマンディー作戦からパリ解放に至る歴史の中の、鉄道員たちのレジスタンスを詳細に再現したクレマン監督」鉄路の斗い Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
ノルマンディー作戦からパリ解放に至る歴史の中の、鉄道員たちのレジスタンスを詳細に再現したクレマン監督
ルネ・クレマン監督の長編第一作。第二次世界大戦の1944年6月、連合軍が敢行したノルマンディー上陸作戦時のフランス国鉄に働く鉄道労働者のレジスタンスをセミドキュメンタリータッチで描いた戦争実録の生々しさが特徴だ。それは、パリ解放の同年8月までの占領下に於けるフランス人の命と誇りを賭けた闘いを、映画として直ちに残そうとした軍事活動委員会から依頼されたという。クレマン監督は、若い時に陸軍映画班に在籍して記録映画を制作した経歴を持って映画界に入ったという。最適な抜擢であり、それに応えたクレマン監督の脚本と演出は、今日の視点でも充分訴えかけるものを持っている。
それにしても翌1945年5月のベルリン陥落前に映画制作を決めた、この時のフランス映画界の底力と、それに協力したフランス国鉄職員の鎮魂と解放の喜びは、私の想像を超えている。軍事物資や兵器を前線に輸送したいドイツ軍と、事故と見せかけた操車妨害や線路爆破で阻止しようとする鉄道労働者との攻防が、殆ど素人たちによって演じられているからだ。一般の戦争映画にあるような銃撃戦や列車脱線のスペクタクル、そして軍用列車が空爆されるシーンも迫真の演出で再現されているし、ドイツ軍の装甲車はそのまま使用したと思われる存在感がある。けして娯楽的な映画を目指した訳で無いのは充分承知しながら、その映画的な充実度と描写の密度には感心せざるを得ない。それでも戦後の映画界を変えたイタリア・ネオレアリズモ映画との関連性は余り感じない。例えば、足止めを食って列車でのんびり暇を持て余すドイツ兵の描写があったり、解放されたと思ってフランス国旗を窓に掲げる小父さんを可笑しく描いている。リアリズムの厳しさより、記録映画の真実性に拘ったクレマン監督の演出だった。
上映時間90分に満たない小品だが、今日の戦争と占領について考えなくてはならない人類の問題点と課題を示唆する点においても、鑑賞に値するフランス映画でした。