鉄路の斗いのレビュー・感想・評価
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クセの強い内容でありながら居心地がいい
ルネ・クレマン監督の作品続きで観る。
占領下フランスの国鉄職員のレジステンスを描いた映画ということで、古い映画だし、ドキュメンタリー風らしいので期待はしていなかったけれど、意外になかなかの満足感。
白黒で音楽はほとんどなく、登場するのはほぼ男性ばかり。それぞれの使命を淡々と果たしていく様子が描かれる。渋い!ふだん観ない類のもの。ところが…この渋さが結構よかった。余計なものがないので何がどうなる、ということに集中できる。
実物を使ったロケの魅力もあり、いつの間にか、先へ引き寄せられていく。
映画において、シンプル、ということは結構いいものだな、と思った。
事のいきさつを理解するのに邪魔になりがちな、お涙ちょうだい的なものや個人の背景などがほとんど排除されているわけだけれど、いのちの重みや心理については、少ない表現で上手に加味されている。そこには、観る者の想像力を引き出すよいセンスが感じられると思うし、観る側が持つ想像力への信頼も伺えるように思う。
クセの強い内容でありながら、居心地がいい映画だったのは凄い。
慰霊塔としての映画
ドイツ占領下のフランスでの鉄道員たちの抵抗活動を描いた映画。フランス映画総同盟とフランス国鉄の抵抗委員会が共同で企画・製作、実際の鉄道員たちが多く出演し、フランスでは終戦から間もない1946年に公開されたとの事。
そういった背景もあるのだろうか。本人達が当たり前のように機関車を動かし線路工事をする。全てにおいて違和感がない。
戦車を載せた貨車が次々と脱線し飛び出していくシーンも、機関車や戦車含めて全て実物のようで生々しい迫力がある。
内容としては、後半に老機関士が口にする「出来る事をやるしかない」という一言が全てを表していると思う。自らの使命感の下、各々が鉄道員ならではの方法でドイツ軍へサボタージュを行っていく。
実際には身内からの密告等、一枚岩ではなかったと思う。だが理由を必要とせず自発的にあちこちで行われるサボタージュは、フランス人の反骨精神の凄まじさをよく物語っている。
ノルマンディー作戦からパリ解放に至る歴史の中の、鉄道員たちのレジスタンスを詳細に再現したクレマン監督
ルネ・クレマン監督の長編第一作。第二次世界大戦の1944年6月、連合軍が敢行したノルマンディー上陸作戦時のフランス国鉄に働く鉄道労働者のレジスタンスをセミドキュメンタリータッチで描いた戦争実録の生々しさが特徴だ。それは、パリ解放の同年8月までの占領下に於けるフランス人の命と誇りを賭けた闘いを、映画として直ちに残そうとした軍事活動委員会から依頼されたという。クレマン監督は、若い時に陸軍映画班に在籍して記録映画を制作した経歴を持って映画界に入ったという。最適な抜擢であり、それに応えたクレマン監督の脚本と演出は、今日の視点でも充分訴えかけるものを持っている。
それにしても翌1945年5月のベルリン陥落前に映画制作を決めた、この時のフランス映画界の底力と、それに協力したフランス国鉄職員の鎮魂と解放の喜びは、私の想像を超えている。軍事物資や兵器を前線に輸送したいドイツ軍と、事故と見せかけた操車妨害や線路爆破で阻止しようとする鉄道労働者との攻防が、殆ど素人たちによって演じられているからだ。一般の戦争映画にあるような銃撃戦や列車脱線のスペクタクル、そして軍用列車が空爆されるシーンも迫真の演出で再現されているし、ドイツ軍の装甲車はそのまま使用したと思われる存在感がある。けして娯楽的な映画を目指した訳で無いのは充分承知しながら、その映画的な充実度と描写の密度には感心せざるを得ない。それでも戦後の映画界を変えたイタリア・ネオレアリズモ映画との関連性は余り感じない。例えば、足止めを食って列車でのんびり暇を持て余すドイツ兵の描写があったり、解放されたと思ってフランス国旗を窓に掲げる小父さんを可笑しく描いている。リアリズムの厳しさより、記録映画の真実性に拘ったクレマン監督の演出だった。
上映時間90分に満たない小品だが、今日の戦争と占領について考えなくてはならない人類の問題点と課題を示唆する点においても、鑑賞に値するフランス映画でした。
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