「伝説の美男スターヴァレンティノとヴァンプ女優ニタ・ナルディの闘牛映画の楽しみ方」血と砂(1922) Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
伝説の美男スターヴァレンティノとヴァンプ女優ニタ・ナルディの闘牛映画の楽しみ方
世紀の二枚目俳優ルドルフ・ヴァレンティノが颯爽と闘牛士に扮して、妖艶な未亡人の色香に迷った末、闘牛場の砂を血に染めて落命するというサイレント映画らしい作品。ヴァレンティノの代表作として映画史に名を遺す。原作は、前年のレックス・イングラムの大作「黙示録の四騎士」と同じく、スペインの世界的作家ブラスコ・イバニェス。約二十年後に再映画化され、タイロン・パワーが主演したのを中学時代に日曜洋画劇場で観た記憶はあるが、特に印象には残らなかった。監督は、「奇傑ゾロ」(20)「三銃士」(21)「ベンハー」(26)などのフレッド・ニブロという人。今回初めて鑑賞する。脚本は、ケン・ラッセルの「バレンチノ」に登場したヴァレンティノの理解者ジューン・メイシス。主人公ファン・ガラルドの妻カルメンに清楚な女性らしさを持つライラ・リー、ガラルドを誘惑して虜にさせる悪女ドニア・ソールにニタ・ナルディの配役で、娯楽映画の一定の水準はクリアーしていると思う。だが俳優の魅力以外の演出や撮影に特質を見つけられず、この感想文も書き難い。田舎青年がスペイン最高の人気闘牛士になって大活躍するストーリーは理解するも、貞淑で心掛けが良い妻を得ていながら、偶然闘牛を見学に来ていた公爵の姪である美しい未亡人に一目惚れし、虜になっておいそれと言われるままになってしまうところに説得力がない。感情のこもった台詞のやり取りがないサイレント映画の表現力の限界を感じる。ヴァレンティノは、最初に顔が映し出されるところは流石に奇麗で立派だが、物語上徐々に精彩が無くなっている様に見え、逆にニタ・ナルディの強烈な色仕掛けが印象に残る。ヴァンプ女優として一世を風靡したのも頷ける個性表現だった。兎に角当時の女性の映画ファンは、ヴァレンティノの色んな格好と役柄に狂喜したのであろう。
それと闘牛映画で言えば、個人的には直ぐにフランチェスコ・ロージ監督の「真実の瞬間」という、迫力があって詩的なイメージが浮かんでくる傑作があるので、どうしても比べてしまっていた。しかし、主人公の設定に於ける立身出世の道程には、共通した階級差別による悲劇があって考えさせる。ロージ監督も、このイバニェスの原作を意識していたと想像する。それにしても当時のサイレント映画には、美しい悪女が純真な男を誘惑し破滅に追い込むストーリーが多く見られ、観客もそれを楽しみ、また教訓映画として感じ取っていたのではないだろうか。二人の美女に挟まれた男は苦労する羽目になるのに、何故かそれを潜在的に疑似体験するのも楽しんでいた?
美女に騙されたい男の願望を兼ねた、伝説の美男スター、ルドルフ・ヴァレンティノ主演のサイレント映画でした。
1979年 5月30日 フィルムセンター