「ルー・ゲーリッグの人生讃歌の美しさと情愛の深さ」打撃王 Gustav (グスタフ)さんの映画レビュー(感想・評価)
ルー・ゲーリッグの人生讃歌の美しさと情愛の深さ
現在ALSの名で知られる難病 筋萎縮性側索硬化症は、この映画により”ルー・ゲーリッグ病”として知れ渡ることになった。日本では、2014年に三浦春馬主演のTVドラマ「僕のいた時間」で広く認知されたと思う。アメリカの英雄ルー・ゲーリッグがその病により37歳の若さで亡くなって、直ぐに追悼の意を込めて作られた実録スポーツ映画だが、サミュエル・ゴールドウィン製作、サム・ウッド監督のスタッフにより、ハリウッド映画全盛期の最良のヒューマンドラマになっている。特に親子愛と夫婦愛の美しさは、これ以上の作品は無いのではないかと思えてしまう美しさを、主演ゲーリー・クーパーとテレサ・ライトが代表する俳優人の好演で映像に遺している。名脇役ウォルター・ブレナンの存在も大きい。現役引退したベーブ・ルース本人が出演協力した野球映画の希少価値と、模範的な夫婦像を創作した人情劇の温かさが特徴である。
立身出世の英雄崇拝の制作動機は、母親想いのゲーリッグの人間性と妻へ対する無垢な愛情をきめ細やかなタッチで表現することで成果を出している。初めて婚約者を紹介された時の母親の気落ちした表情を捉えたシーン、部屋の内装に自分の好みを押し付ける義母に太刀打ち出来ず悲しむ妻を慰めるゲーリッグ。後者ではゲーリッグが母をどのように説得したかのシーンは描いていない。それを観客に想像させることを自然に促す演出の良さがある。また、かつて慰安を受けた少年がゲーリッグに再会するエピソードや、病気の症状によりロッカー室で意識を失うゲーリッグに故意に素知らぬ振りを装うチームメイトなど、物語の中心を支える部分の脚本も優れている。
1940年代のこのアメリカ映画は、ジョン・フォード、フランク・キャプラに代表される理想的ヒューマニズムの映画世界が、戦中戦後の時代でも確かに存在していたことを改めて教えてくれる。因みに、原作者はスポーツ記者出身の小説家で「ポセイドン・アドベンチャー」のポール・ギャリコ、脚本家の一人は「市民ケーン」のハーマン・J・マンキーウィッツ、撮影が「裁かるるジャンヌ」「生きるべきか死ぬべきか」のルドルフ・マテと調べて知って唖然とした。(マテは「地球最後の日」1951年の監督でもある。)制作者ゴールドウィンの作品というのが正しいのかも知れない。