「ロマンチックなんかじゃない」タイタニック ipxqiさんの映画レビュー(感想・評価)
ロマンチックなんかじゃない
何度か観たけどなんか変な映画、という印象が強くて、おまけに長くて、ずっとあんまり積極的に観る気になれない作品だった。後半のスペクタクルシーンは好きなので、テレビでやってるとそこだけ見たりしていた。
でも今回、色んな意味でショッキングな潜水艇事故の直後というタイムリーさもあり、久しぶりに頭から観てみた。
そうすると序盤ですでに後半の出来事が示唆されてたり、好みはともかく映画的な語りのうまさはすごいなと思った。
たとえばまず冒頭、調査船の場面でタイタニックがどう沈んだかの流れをセリフで説明してる。それによって観客は最初に何が起こるのか把握したうえで、ジャックとローズの命運について否応なく意識させられる。
次に港で乗船する場面、タイタニックを正面から映していくショットでさりげなく船体の氷山にぶつかって壊れる箇所を印象づけている。
また前半で2人が他愛ない追いかけっこをする通路、これはたぶん後半でジャックを助けにローズが必死で走る場所。
そしてもちろん船尾は2人が出会い、船に残る際の舞台にもなる。
たぶん私が気づいてないだけで、他にもこういう映画的な反復が散りばめられてるんだろうな。当然だけど、とにかく演出がうまい。
そして2人はつねに逆風にさらされながらタイタニックの上にいるわけで、最後までどうなるかわからない。まあ当然っちゃ当然なんだけど、それによってタイトル通りタイタニック号を全力で描写するっていうジェームズ・キャメロンの趣味と実益を最大限に活かすストーリーにちゃんとなってる。
ジェームズ・キャメロンは企画のプレゼンで「沈むタイタニックの上でロミオとジュリエットをやる」と言ったらしいけど、だったら本来2人とも死なないと話が成り立たない。
代わりにタイタニックが沈むことで作品に悲劇性を与えてるわけだけど、つまりはタイタニック号がロミオかつジュリエット…?
だからロマンチックなラブストーリーと考えるとちょっと変なところもあるけど、あくまでローズが力強く生きていく力を獲得することが主眼だと考えると腑に落ちる。ジャックはそのための触媒というか、まるで夢のような理想の男性。だからこそ非現実的で2.5次元的な美青年のディカプリオと地に足のついたしっかり3次元のケイト・ウィンスレットっていうキャスティングなんだと納得した。
そもそもバズ・ラーマン版ロミジュリでロミオやってるって身も蓋もない理由かもしれないけど。。
そんな理想の王子様として絶頂のディカプリオがこの後アカデミー賞にたどり着くまでの苦労を考えるだけで余裕で映画1本観た気になれる。