「女性のための怪獣映画、その経典版」タイタニック Gustav (グスタフ)さんの映画レビュー(感想・評価)
女性のための怪獣映画、その経典版
貧しき青年ジャックが、命を賭して階級社会・身分制度を象徴する”怪獣”タイタニック号から令嬢ローズを救い、自由と平等の国アメリカに導く。ローズは、救助された船上でアメリカを象徴する”自由の女神”を仰ぎ見たとき、上流社会への決別を覚悟して、コートのポケットに隠した宝石“碧洋のハート”に頼らない自立した生き方を誓う。
時は流れて、
ジャックの姓に変えたローズは、新天地アメリカで自由で自立した人生を送って齢100歳を迎える。充実した生き方が出来たのはジャックの御かげと伝えたく、タイタニックの調査船を訪れ、船室に自分の辿ってきた写真をいっぱいに並べる。再会するジャックに、沢山の土産話をするために。ローズは誓いの象徴である”碧洋のハート”に魂をこめてジャックの眠る海中に投げ入れる。そして、ひとり静かに眠りにつく。ラスト、亡くなったローズは、ウエディングドレスに身を包み、皆の祝福を受けながらジャックと永遠の愛の交わす。
ローズとジャックの悲恋物語は、明晰な展開を重ね、女性の立場に立った甘美なストーリーを構築しています。スペクタクルとファンタジーのどちらも見応えがある優れた娯楽作品です。
ラスト、舞台のカーテン・コールのようなエンディングシーンは、ローズの幻想か、それとも彼女は亡くなったのか、観方が分かれます。ローズがもう死んでもいいと願い宝石を海に沈めたことを思うと、亡くなってジャックのもとに帰ったと考えたい。ジャックが眠る海底のタイタニック号に宝石が辿りく幻想を抱きながら、思い残すことはない人生を全うしたローズの最期は幸せに溢れていた。
この映画の正当な批判は、乗員乗客2224人中1513人もの犠牲者を出した実際の海難事故を題材に、悲恋ロマンを謳ったことにあります。ジャックひとりの死の悲しみが大きすぎました。若いレオナルド・ディカプリオがそれだけいい演技をしたからでもありますが。
それを補える映画が、1958年制作のイギリス映画「SOSタイタニック」です。実録ドキュメンタリータッチでタイタニック号の悲劇を忠実に描いています。この中で、逃げ惑う三等船客の人達が一等船客のダイニングルームに遭遇して、その豪華さに感嘆するシーンがあります。そんな見比べも面白いので、お薦めします。