「忘れない人、戻ってこない人」セントラル・ステーション とぽとぽさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 忘れない人、戻ってこない人

2025年10月28日
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"旅は道連れ世は情け"な一文無し子連れ狼ロードムービー。
主人公の職業=代書人に象徴される識字率に子を捨てる親、そして人身売買など、(原題が「ブラジルの中央」を意味するであろうように)当時のブラジルの世相・社会問題。万引きで銃殺される人、事故死然り唐突な形で無残に奪われる命。ウォルター・サレス監督はやはりロードムービーの人なんだなと痛感。きれいごとみたいなこと言うけど、人生みな何処かへ向かう途中だなと。
擬似親子的であり、境遇を共にする戦友でもある。代書や電車&バスで立つなど、差異を伴う反復イメージングシステムを用い、衝突にユーモアも交えながら、主人公2人の絆が築かれていくさまが見事。主演2人が魅力的だった。同じ家が立ち並ぶ中で2人がある決断をしてから歩き始めるショットからの、同じ構図で各々が歩くショットなど完璧だなと思った。生きづらい厳しい世の中でも人間らしさ(ヒューマニティ)を、納得感のある形で説く。
ネット社会に、スマホも当たり前の現在では作れない作品。信仰も描かれているけど、神は、欲しいものでなく、必要なものを時として予期せぬ形で与えてくれるのかもしれない。そして最後は、少年のカミングオブエイジ青春成長ものにもなるという。読めない手紙を書くというのも…。地域性・文化性も時代性も出ていて、すてきな映画だった。きっと思いは生き続ける。

と言いつつここで怖い話を。
最後のあの出会いがあったとき、「絶対にこいつ嘘ついているヤバい奴だろ」って思ったら、そんなこと無くてハッピー・サッドなクライマックスへ雪崩込むのだけど、犯罪が多いリオの話になったときに主人公ドーラが「犯罪はどこでも同じ」みたいに言っていたことを含んで考えると(作品前半の人身売買連中との"演じる"という共通点もあるので)、やはり自分の心配もあながち間違いじゃない気がする。つまり字を読めないフリをしている!…と考え出したら怖いオチ。本当に少年は大丈夫だろうか?

P.S. 今年の東京国際映画祭1本目。本作は、同監督の『アイム・スティル・ヒア』を今年観て、「何で日本で観れないのか。日本で観れない名作ありすぎ!」と熱がぶり返していたところの作品だったので、念願叶ってスクリーンで観られてよかった。国立映画アーカイブでの鑑賞は、ノーラン監修の『2001年宇宙の旅』70mm版特別上映以来。

勝手に関連作品『グロリア』『ペーパー・ムーン』

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とぽとぽ