「自分のためだけに生きていない時代の物語」一番美しく neonrgさんの映画レビュー(感想・評価)
自分のためだけに生きていない時代の物語
戦時下の光学兵器工場を舞台に、女子工員たちの勤労と献身を描いた作品。プロパガンダ映画という制約のもとに作られながらも、この作品には明確に黒澤の「人間への信頼」が貫かれている。
演出においては、音楽の使い方は煽るのではなく、静かに、内面に響くように添えられ、集団の描写には演劇的な構図の工夫が光る。黒澤の後年のテーマでもある「自己犠牲」や「正しく生きるとは?」といった問いが、少女たちの姿を通じて、一つの答えとして提示されている。
この映画の制作を通じて、黒澤自身が「演出家としての自信を得た」と後に語っているが、確かに、無名の女性たちを中心に据え、リアルな演技を引き出したその手腕には、若き日の監督の覚醒が感じられる。主演の矢口陽子(渡辺ツル)は後に黒澤と結婚するが、黒澤にとって何より一番美しかったのは渡辺だったようだ。
戦時中の価値観を超えて、我々の心を直接大きく動かしてくれ、我々が望む黒澤映画の始まりとも言える傑作。
90点
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