劇場公開日 1994年12月23日

「散り際の東方不敗」スウォーズマン 女神伝説の章 neonrgさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 散り際の東方不敗

2025年11月12日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

ツイ・ハーク制作の作品で、当初はキン・フー監督が撮っていたものの途中降板したという経緯があり、その点は作品全体にも表れているように感じました。キン・フー的な文人武侠の気配はほとんど残っておらず、時代がだいぶ進んだこともあって、むしろ90年代香港アクションらしい勢いと混沌が前面に出ている作品だと思います。

本作でもっとも印象に残るのは、やはりブリジット・リン演じる東方不敗です。両性具有のキャラクターとして描かれており、圧倒的な強さと同時に、恋をした一人の存在としての弱さや悲しさも同時に抱えています。主人公はジェット・リーで、これも“香港映画らしい”と言っていいのですが、とにかくやたらモテるタイプの主人公で、あちこちから好意を寄せられるお決まりのパターンで描かれています。

作中で東方不敗と主人公が一夜を共にしたかどうかという点は、観客側から見ると完全に「東方不敗の恋人・シィシィのほう」とはっきり分かる撮り方になっています。ただ主人公のほうだけが最後まで確信が持てず、そのまま崖の上の対決に至り、東方不敗が「死ぬまで悩めばいい」と言い残して去っていく。このやり取りが非常に切なく、強さと弱さを併せ持つ東方不敗というキャラクターを象徴するシーンだと思います。

アクション面では、水の上を走ったり、爆破がやたら多かったりと、当時の香港ウーシア映画らしい勢いが全開で、ワイヤーが見えてしまうような箇所も気にせず押し切るパワーがあります。意外だったのは、部分的にクロサワ映画のようなディープスペース(手前に顔のアップ、奥に人の列や空間が広がる構図)が使われていた点で、画面に奥行きを持たせる工夫があることでした。ただ、基本的には“勢いと見せ場”で突っ走るタイプの映画だと思います。

全体として、ジェンダー表現なども盛り込まれてはいるものの、作品としてはあくまで娯楽アクション映画の範疇で、社会的メッセージを強く打ち出すような作りではありません。アクションの派手さとキャラクターの魅力を中心に楽しむ映画であり、その中で東方不敗という特異で魅力的なキャラクターが後世に強く残った理由もよく分かる一本でした。

鑑賞方法: Blu-ray (香港版)

評価: 70点

neonrg