「ビリー・ボブ・ソーントンの演技に釘付け!」シンプル・プラン jin-inuさんの映画レビュー(感想・評価)
ビリー・ボブ・ソーントンの演技に釘付け!
真っ白な雪に閉ざされた、一見平和なアメリカの田舎町。
真っ黒なカラスたちが不穏な雰囲気を漂わせます。
ちゃんと大学出て、ちゃんと肥料屋さんで働いて、ちゃんと結婚してて、ちゃんとした家に住んでて、ちゃんと散髪してて、街の人達ともうまく行っているし、何しろ「ちゃんとしている男」ハンク。
そんな「ちゃんとした」彼には、全く「ちゃんとしていない」兄、ジェイコブがいて、ちゃんとしていない兄には、やっぱりちゃんとしていないマブダチ、ルーがいます。
ジェイコブは汚いアパートに犬と暮らしていて、ルーは一応妻と持ち家に住んでいますがどちらも無職かつ貧乏。
この3人の男たちが誰もいない森の中で偶然大金を見つけ、それがきっかけで全員転がるように破滅して行くことになります。
当面、金はハンクが預かり、頃合いを見て3人で山分けにする計画を立てますが、ジェイコブとルーのダメっぷりにハンクは危機感を募らせます。
そんなハンクから計画を打ち明けられた妻は「金の一部を戻してこい」だの「ルーを騙して偽の証言を録音しろ」だの、一見良さげな提案をしてきます。それに従うハンクはジェイコブを巻き込みながら悪い方へ悪い方へと落ちていきます。
本作の最大の見所は、登場人物たちの仮面がちょっとずつ剥がれて、本性がむき出しになっていくところです。
弟、ハンク・ミッチェル(ビル・パクストン)
「ちゃんとした男」として登場した彼は、実は一番鈍感な男です。自分の大学の学費の出所、父の本当の死因、兄の孤独と絶望、妻の絶望、いろいろ無頓着。
兄、ジェイコブ・ミッチェル(ビリー・ボブ・ソーントン)
女と付き合ったのは1回だけでキスしたこともない。それも女同士の賭けの対象にされてという悲しいエピソードを淡々と話ます。周囲からも弟からも、ダサい愚鈍なダメ男として扱われていますが、観察眼と感受性は鋭く、時に真実を言い当てます。
なにしろビリー・ボブ・ソーントンの演技に釘付けになってしまいます。「お人好しの愚鈍な男」として登場しますが、徐々に内面に孤独と絶望を抱えた繊細で鋭い感受性を持つ男であることが分かります。こんな複雑なキャラクターをビリー・ボブ・ソーントンはまるで多重人格者のように、場面ごとに雰囲気を変えながら演じています。彼の演技は観るものに忘れられない印象を残します。複雑なキャラクターを演じたら、彼の右に出るものはいないと思います。
悪友、ルー・チェンバース(ブレント・ブリスコー)
「邪魔者」として登場した彼は見た目通りの単純なキャラクターです。マブダチのジェイコブが自分よりハンクを選んだことに腹を立て銃をぶっ放します。
妻、サラ・ミッチェル(ブリジット・フォンダ)
図書館勤務の「貞淑なかわいい奥さん」として登場する彼女は、実は4人の中で1番狡猾で欲深な人間です。彼女に比べれば、3人の男たちが純情で可愛らしく見えてきます。ハンクとの結婚生活も一見幸せそうに見えますが、彼女は全く充足していません。それに気づいてしまったハンクは、虚無顔を晒します。
ビリー・ボブ・ソーントンの演技とサム・ライミ監督の演出が大変冴えた一本です。