劇場公開日 2025年8月1日

「威勢の良さに用心せよ」ジョニーは戦場へ行った 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 威勢の良さに用心せよ

2025年8月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

終戦80年企画として市川崑監督の『野火』とともに上映されたのが、本作『ジョニーは戦場へ行った』でした。“終戦80年企画”というタイトルから、てっきり『野火』同様に第二次世界大戦を題材にした作品かと思いきや、本作の舞台は第一次世界大戦下のヨーロッパ戦線でした。とはいえ『野火』同様、本作にも戦闘シーンはほとんど登場せず、戦争によって目・鼻・口・耳をすべて失い、さらに四肢を切断された青年ジョー(ティモシー・ボトムズ)の悲劇が、静かにしかし強烈に描かれていきました。

もっとも、第二次世界大戦と無関係という訳ではありません。監督であるダルトン・トランボが第二次世界大戦勃発直後の1939年9月3日に発表した原作小説は、その反戦的・反政府的な内容から、1945年には絶版(事実上の発禁)となったそうです。終戦後に復刊されたものの、1950年に朝鮮戦争が始まると再び絶版となり、当時のアメリカ政府から強い警戒を受けていたことがうかがえます。
また映画版も、ベトナム戦争の最中である1971年に公開されました。つまり小説版にしても映画版にしても、徹頭徹尾反戦であり反政府の色が濃く、戦争を讃えるどころか、その本質を徹底的に問い直す作品となっていました。

本作の原題『Johnny Got His Gun(ジョニーは銃をとった)』は、第一次世界大戦におけるアメリカの志願兵募集歌「Over There」に登場する「Johnny, get your gun(ジョニーよ、銃をとれ)」というフレーズを絶妙に皮肉ったものです。この「Over There」は、YouTubeで聴くこともでき、軽快なテンポと威勢の良さが特徴の、まさに国威発揚のための軍歌でした。

その歌に乗せられ戦場に向かったジョーを待っていたのは、冒頭にも書いた通り目を覆いたくなるような運命でした。戦争は本来、ないに越したことはありませんが、仮に百歩譲って戦争を避けられなかったとしても、問題はその後の対応にあります。ジョーが戦死していれば「英雄」として讃えられたのでしょうが、再起不能な重傷を負って帰還した彼に国家が用意したのは、人体実験の道具としての扱い、そして死ぬまでの隔離でした。

奇跡的に首と頭部だけをわずかに動かせたジョーは、モールス信号を使って必死に意思を伝えようとします。実際、彼の訴えは看護師の一人に伝わったのですが、軍上層部はその事実を無視し、彼の存在を外部に知らせることなく封じ込めてしまいます。この理不尽さには、怒りしか覚えませんでした。

もちろんこれはフィクションですが、国家権力が都合の悪い事実を隠蔽しようとするのは今も昔も変わらず、本作の描写には強いリアリティを感じました。

『野火』と併せて本作を鑑賞しましたが、結局のところ、洋の東西を問わず、最前線に送られる兵士たちは“使い捨て”にされる存在であることを、改めて痛感しました。威勢の良いことを言う政治家たちに、決して踊らされてはならない、そう強く思わされる二本立てでした。

そんな訳で、本作の評価は★4.2とします。

鶏
かせさんさんのコメント
2025年9月5日

若い頃、「栄光なき天才たち」というマンガに描かれたトランポに興味を持ちました。
そこから原作を読んで、その後「手も足も出ない状態」をさす『バスケットケース』というスラングの存在を知って、ゾッとした手ざわり、今もありありと残ってます。

かせさん