「ルイ・マル畢生の”記憶映画”」さよなら子供たち Gustav (グスタフ)さんの映画レビュー(感想・評価)
ルイ・マル畢生の”記憶映画”
「死刑台のエレベーター」「鬼火」「ルシアンの青春」と共にルイ・マル映画を代表する名作。クストーの海洋記録映画「沈黙の世界」でデビューしたルイ・マルの演出スタイルは、記録映画手法の即物的な視点が勝るもので、多様性のある題材の特異さに対して、とてもオーソドックスなものです。この自伝的な作品も、劇的な演出を避けて冷静に淡々と子供時代に経験した”忘れられない記憶”を描いています。西ヨーロッパの、特にナチス・ドイツの戦争被害を受け国家的にも個人の生活としても多大な影響を体感したフランス、ベルギー、オランダの映画を僅かながら鑑賞した個人的印象は、第二次世界大戦の記憶を消して忘れない執拗さです。それは、戦後の繁栄を享受し平和に浸る日本とは違います。恋愛映画やいろんな娯楽映画で、映画を楽しみ、映画で遊ぶルイ・マルが、「ルシアンの青春」で一つ上の世代を描き、そしてここで個人的な告白をする。それまでの30年の映画監督のキャリアを通して、今伝えておきたいことを切実に。映画が表現すべきものは何か、真実を伝達する映画の使命に答えた、”映画”に映画を捧げるルイ・マルの偽りのない心象がヒシヒシと感じられます。これは劇映画の形を借りたルイ・マル畢生の”記憶映画”と云えるでしょう。
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