コレヒドール戦記のレビュー・感想・評価
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敵がいない戦争
1945年。ジョン・フォード監督。太平洋戦争緒戦のフィリピン諸島。高速魚雷艇の乗組員たちは戦いたくてうずうずしているが、作戦上なかなか出番は回ってこない。徐々に後退を余儀なくされるなか、移送と護衛というあまり名誉でない任務を任されることに。一方、血の気の多い中尉は怪我で病院送りとされ、そこで出会う看護師と不器用な恋に落ちて、、、という話。 戦争という国家の名の下でもっとも個性が奪われて組織が優位に立つ状況で、階級や組織とは関係なく個人的なつながりが生まれ、国家とは関係なく団結していくこと姿を丁寧に描いている。「敵」はもちろん大日本帝国なのだが、「敵」が現れて複数性が抑圧され、同一性が勝利するのではない。敵の姿は映画のなかでほぼ描かれないが、それは感情移入を防ぐためではなく、敵を描こうとすればその複数性も描かざるを得ず、映画として成り立たないからだ。西部劇でしばしば原住民がそのように扱われているように。描かれている日本人は、戦争開始の時点でフィリピンの米軍パーティのなかにいてなぜか編み物をしている女性だけなのだが、これがいかなる意味でも「敵」ではないのはいうまでもない。 敵のいない戦争映画のなかで、人々はそれぞれの複数の人生を生きている。
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