「孤独の淵へ」孤独な場所で 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
孤独の淵へ
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物語のウェイトが殺人事件の犯人探しからラブロマンスへと知らぬ間に移行しているあたりはまさに正統なるフィルム・ノワールという感じ。
主人公のディクソンははじめこそ純潔な語り手として物語を牽引していたが、次第に内面の欠落した暴力漢として第三者化していく。まるで乗っていた船が少しずつ暗い海に沈んでいくような恐ろしさだ。
信頼関係を築きたい気持ちと本能に染み付いた暴力性が互いを押し合いへし合うなかでどんどん孤独の淵へと追いやられていくディクソン。その自己矛盾に薄々気づいてしまっているあたりが切ない。
結局彼は殺人事件の犯人ではなかったものの、事件を契機に彼の暴力性が滲出し、それがローレルの心を深く傷つけてしまったことは取り返しようのない事実だった。彼は関係の終焉を悟り、静かに部屋を去りゆく。その背中を見送るローレルの表情には悲しみとも憐れみともつかない涙が浮かんでいた。
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