国民の創生のレビュー・感想・評価
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一般教養必須科目
大正4年製作ですが、当時画期的であった様々な撮影技術やモンタージュを駆使した初めての大長編作品ということで映画史上の最重要作品であることは万人の認めるところであり、この手の傑作のけなしてはいけないような雰囲気もありますが、今観て面白いか?と言われれば???です。要するに映画ファンであれば一度は観ておくべき必須の教養番組であって、それ以上でもそれ以下でもありません。
同じような家族構成の二組の家族が軸となっていますが、セリフなしの字幕のみで、且つ南北戦争の基礎知識のない日本人が、登場人物や話の展開を理解するのは不可能です。WIKIのあらすじを手元において観た方がいいでしょう。
正義の味方KKKが黒人たちをやっつける、という超絶面白過ぎる展開、初めて音響効果を効果的に使用した、と喧伝されているわりには、話の展開や場の雰囲気を全く無視してひたすらダイナミックなクラシック音楽を初めから終わりまで垂れ流し続ける音楽センス、まあこの頃だから仕方ないんでしょうけど、ちょっとドヤ顔過ぎて失笑です。
比類なき完成度。その悪質なテーマから正当な評価が得られなかった超大作。
グリフィスは映画の父として知られ、カットバック、ロングショットといった様々な手法を生み出し、カメラの可能性を提示した。(ジョルジュ・サドゥールによると)本作は1544ショットで構成されており、その多くが歴史的価値をもっている。
クローズアップの発明者については、しばしば議論のテーマとなっているが、ドラマを盛り上げる道具として自分のものにしたという点では、間違いなく彼が第一人者であろう。本作でも多用されており、その効果は抜群だ。
南北戦争によって引き裂かれた2つの家を軸に物語が展開され、リンカーンの暗殺、KKKの結成といった史実の中に白人を襲う凶暴な黒人という偏見に満ちたキャラクターを登場させることで、あたかもそれが彼らの本当の姿なのだと我々は錯覚する。
リンカーンの死によって暴徒と化した黒人たちは街を支配し、白人女性と結婚しようとする者まで現れるが、そこへ顔に白い覆面を被った"正義の制裁を下すヒーローたち"がやってきて、彼を殺し、その死体を”悪の根源"である州知事宅の門前に置く。
こうして黒人軍団とKKKとの争いは激化するが、お察しの通りKKKは黒人たちを弾圧する。この激しい戦闘シーンは、
・白人女性を誘拐した州知事宅
・黒人軍団とぶつかり合うKKK
・家を追われ、小屋に逃げ込むが武装した黒人に囲まれる家族の危機
という3つの状況をクロス・カッティングでスピーディーに進行させており、すでに「イントレランス」を予感させるものがある。
ラストシーンでは、めでたく2組の夫婦が誕生し、イエス・キリストも彼らを見守っている…。
原作は牧師のトマス・H・ディクスン作「クランズマン」で、南部主義者一族の子孫だったグリフィスは、ほとんど遺伝的に反黒人論者であった。人種差別は当時当たり前のように浸透しており、今でこそ批判の的だが、(やはり公開が禁止された地域は少なからずあったようだが)南部では検閲でカットされなかったようである。
また、慈善団体などからの批判さえもこの映画の宣伝効果となり、結局無声映画史に残る興行成績を叩き出すこととなった。
無声映画特有の大袈裟な演技(…が、ほとんどの俳優は模範的ではないだろうか)、誇張された幾つかのエピソード、悪質なテーマを含めても、この映画の完成度はすばらしく、認めたくはないが、映画自体がこれ一本で一気に良くも悪くも複雑化したのだ。
この「國民の創生」を否定することは、グリフィスを否定することであり、ほとんど"映画"自体を否定することになる。人種差別はこの世から抹殺しなくてはならないが、グリフィスの名と、彼の功績はいつまでも語り継がれるべきだ。
「國民の創生」は憂鬱で、悪質な作品である。
しかし、その完成度は比類なきもので、ほとんど時代を超越している。傑作と言わざるをえない。
映画の父、グリフィス監督の映画表現法確立の記念碑的大作
映画が見世物としての娯楽性だけではなく、芸術としての表現法を確立した記念碑的アメリカ映画の大作である。上映時間も12巻の165分と、当時の興行常識を打ち破る画期的な作品。但し、内容に関しては問題がある。監督のD・W・グリフィスは、南軍大佐だった父親を持つ影響からか、南部白人社会の一方的な価値観で占められている。それは第一に黒人差別であり、同時に白人至上主義である。アメリカ建国から自由主義社会の謳歌までが、黒人の人たちの犠牲の上に成り立っていると解釈できる。南北戦争で北軍が勝利を収め自由を得ることが出来た黒人の人たちが、再びK・K・K団の制裁によって沈黙していく姿は悲惨極まりなく、その扱いは映画の悪役の枠をはみ出している。白人が善で、黒人が悪の偏った正義感には、どうしても嫌悪感が生まれてしまう。唯一の教訓は、20世紀初頭のアメリカの人種差別意識が色濃く反映された記録性に想いを寄せることである。
物語はその南北戦争と、k・K・K団と黒人の闘争の二つに大きく分けられて、スペクタクルシーンの連続に圧倒されてしまう。南北戦争のシーンは、これ以上の迫力をスクリーンに描き収めることが不可能と思わせる程に凄い。大砲の立ち上がる煙の大きさ、広大な大地に長く並行する北軍と南軍の機銃戦、逃げる南軍の大群の移動と、スケールの膨大さでは、これ以上のものは無いのではないか。また、白衣を纏ったクラン団が馬に跨り疾走するシーンの不気味さと異様な感覚は、モノクロ映像表現として優れている。数百、いや数千という数になるクランズマンが、白人娘の救助に向かうシーンのサスペンスと、大平原の一軒家で黒人たちに取り囲まれた白人家族を救うシーンのスリルは、特筆すべき映画的演出の模範と言えよう。
映画技法のカットバックやクロスカッティング、そしてクローズアップやフラッシュバックなど、基本となるテクニックを生み出したグリフィス監督が、”映画の父”と称されることが納得の歴史的名作には違いない。この映画に関わった映画人に、ジョン・フォード、エリッヒ・フォン・シュトロハイム、ラオール・ウォルシュ、そしてドナルド・クリスプがいる。なんと豪華なメンバーであろう。無声映画は、この作品を契機に飛躍的に発展し、トーキー映画が誕生するまでの約15年の間に成熟し完成の域に到達していく。内容の問題を抱えても、その表現技法の貢献度の高さ故、高く評価することにやぶさかではない。リリアン・ギッシュの可憐さ、大きな目が美しいミリアム・クーパーの二人の女優も印象に残る。
1976年 10月7日 フィルムセンター
100年以上前に作られたとは思えないクォリティの高い作品。南北戦争...
100年以上前に作られたとは思えないクォリティの高い作品。南北戦争の悲劇、人種問題の根深さ、怖さがリアルに伝わってくる。無声映画だが2時間半があっという間に過ぎてしまった。表情だけで多くの複雑な内なる想いを投げかけてくる。若かりし頃のリリアン・ギッシュが可憐で美しい。DVD視聴だったが淀川長治の解説が含まれていたのも一興だった。
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