「空虚な選挙戦のリアルに切り込んだ傑作」候補者ビル・マッケイ 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
空虚な選挙戦のリアルに切り込んだ傑作
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選挙の映画というとティム・ロビンス監督主演のモキュメンタリースタイルのブラックコメディ『ボブ・ロバーツ』を思い出すのだが、極めて客観性のあるドキュメンタリータッチのこの映画のことはかなり参考にしていただろう。
面白いのは主演のロバート・レッドフォードが企画から絡んでいることで、レッドフォードが見た目がよくて好感度も高く、本質的に善良ではあるけれど、厳しい選挙戦を勝ち抜くための覚悟も知識も信念も(足りて)ないまま選挙チームに踊らされてしまうデクノボウを演じていること。「美しい」が形容詞として付いて回るレッドフォードが、いかに世間が抱くイメージにうんざりし、それでいて作品や演技に利用する戦略家だったかがわかる重要作だと思う。
選挙を扱った高校生ドキュメンタリー『ボーイズ・ステイト』でもそうだったが、結局票数を狙い始めると先鋭的な主義主張は引っ込めざるを得ず、ビル・マッケイもふんわりした耳障りのない主張だけをするようになる。もはや対立候補と言ってることは変わらないのに、ふんわり戦略が功を奏して当選してしまう。ラストのお祝いムードの中で、ただただ当惑している主人公の寄る辺ない姿に痛烈な批判と皮肉を感じつつ、しかしじゃあ彼は、別の路線で選挙に勝てたのだろうか……。
レッドフォードは本作の続編を構想していて、ビル・マッケイは元大統領として世代の若い主人公になにかしらの助言を与える役どころだったらしい。すっかり空っぽになったあのハンサム議員がその後大統領にまで上り詰め、そこで何を語ったのか? 今となっては実現することのない企画だが、本作と2本合わせて観たかったものです。
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