「ヒッチコック史上、最小規模の舞台<救命艇>で巻き起こる心理劇」救命艇 ぐうたらさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ヒッチコック史上、最小規模の舞台<救命艇>で巻き起こる心理劇

2020年3月29日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

ヒッチコック映画には、主人公が縦横無尽に世界を飛び交う活劇もあれば、その対極ともいうべき閉所空間サスペンスも存在する。本作は後者のまさに極北。なにしろUボートによって旅客船が沈没し、救命艇に乗り合わせた人々がその内部のみで紡ぎ上げるヒューマンドラマなのだ。そのサイズといったら、横幅は大人が手を大きく広げる程度。縦幅も5mほどしかない。かくもヒッチコック史上最も手狭な空間にて、性別、職業、階級、国籍の異なる人々が時に疑心暗鬼を募らせ、また時に生き残るために力を合わせる。

スタジオ内での撮影ながら、キャストは水に濡れ、風に吹かれ、その姿も焦燥に駆られた感じになり、その上、ラストにはスペクタクルへ身を晒す。本作が戦時中に製作されたことを考えると、敵兵への言葉の中に単なる憎悪や恐怖を超えたヒューマニズムに訴えるメッセージが込められていることに気づき、ヒッチコックの国際感覚に改めて感心させられる。

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牛津厚信