「人間や知性、はたまた文明について考えさせられる怪作」カスパー・ハウザーの謎 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
人間や知性、はたまた文明について考えさせられる怪作
鬼才ヘルツォークの映画を観るときにはみぞおちのあたりが痙攣する。その世界はときに常軌を逸し、観る者を驚かせ、ともすれば嫌悪させることも多いが、本作も「人間性」というおぼろげな輪郭を持った存在について、彼にしか成しえない素っ頓狂さで迫ってみせる。序盤から、ほぼ言葉を用いずに主人公の暮らしを描く場面には、演技の域を超えた異常さを感じるばかり。そこから彼が初めて街へと足を踏み入れ、文明と対峙を果たす場面からは、物語のテーマがより内面へと向かっていく。とはいえ、説教じみたことは何もなく、ヘルツォークなりの荒治療で次々と描写やエピソードを重ねて、観る者に淡々と突きつけるのだ。面白いものでこの真っさらな視点で、ぎこちなく語られるカスパーの言葉には妙に心を打ち、芯を喰ったところがある。彼は何者だったのか。それについて考えることは、人間性とは、知性とは、文明とは何か、を問うのと同意味を持つのかもしれない。
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