劇場公開日 1995年6月24日

「異文化としてのろう社会」音のない世界で ローチさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0異文化としてのろう社会

2018年12月25日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

知的

ろう者の世界を「障害」ではなく、異文化として捉えたドキュメンタリー作品として画期的だった。カメラに映るのは、ろう学校で口語の練習をする子どもたちや教師の姿、ろうのカップルの結婚式など様々だ。強制的にも見える口語の教育には、今観ると違和感を感じるのだが、そうした実態も含めてリアルにカメラに収めたのは貴重だろう。

映画の冒頭に出演しているろうの俳優、レベント・べシュカルデシュは『ヴァンサンへの手紙』にも出演している。本作は、ろうのコミュニティの間では意見の分かれる作品であるようで、ろう者の視点に欠けるという批判もあるようだ。時代が進み、ろう者の視点により近づいた『ヴァンサンへの手紙』と比べると確かに違和感を感じる部分もある。しかしながら、優れた作品であることには変わりなく、とりわけ音声が唐突に途切れるシーンはドキリとさせられる。子どもがマイクに掴みかかるのが原因なのだが、なぜあのNGにも見えるあのカットを使ったのか、監督の深い真意がそこにあるのかもと、と思わせられる。

杉本穂高