劇場公開日 1990年11月3日

「宗教の発生と収束」大きな翼を持った老人 きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0宗教の発生と収束

2021年7月23日
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鑑賞方法:VOD

これは実は自分たちの姿だと気づいてしまえば、なんとなく居心地が悪くなる。そんな映画です。
嫌な思いをする人も、いるんじゃないでしょうか。

宗教施設には必ず門前町が作られ、栄えます。これ、日本も例外なく。

拝観料、おみくじ、記念グッズのお土産店、食事処に休憩所、BGMのスピーカーに本殿の整備拡張、類似の寄生宗教は集来するし、“客”を取られた旧来の宗教家(神父さん)との軋轢も。そして参拝ツアーから売春宿まで。
宗教は、一大産業です。

南米のノーベル賞作家、ガブリエル・ガルシア=マルケスの原作。

カトリックのマルケスとしては、宗教の持つ欺瞞性を冷めた目で観察しつつ、信仰の拠り所を求めて右往左往する同朋たち=人間への憐れみと、いとおしさを、彼はホントに優しい眼差しで描いている。

ブームは去って静寂が戻るんですね。次の御神体を求めて群衆は去っていくわけで。

観終わって振り返る、
・・そういえば、この天使はひと言も言葉を発せずに天空に戻って行きましたよ。

何か語ろうにも、あれほどまでに人間たちの欲と喧騒、好奇の目と救いを求める絶叫に攻められ続けていては、天的存在は口を封じられて、語るに語れないという残念さ。

6年間も同居していながら、天使と無言で心通わせ合ったのは、6歳になった少年だけでした。
強欲を抑えて、鎮まって天使の囁きに耳を傾けるのもいいんじゃないでしょうか。

しかしまあ、トリ小屋で天使を飼うとか、もう爆笑。最後は邪魔者の居候はボケ老人扱い。
批判チクリの大人のファンタジーでした。

脚本を書いて監督を務めたフェルナンド・ビリさんが、あの情けない天使本人を演じました。
「ベルリン・天使の詩」のブルーノ・ガンツにも負けず劣らずの熱演だったと思います。
ただしこちらはラテン気質なのでベルリンの暗さはありません。

迷作ですが、鋭いですよ。

DVD化されていないため
YouTubeで鑑賞
Un Senor Muy Viejo Con Unas Alas Enormes

きりん