「パンクであることと名誉を欲することの葛藤」ヴィヴィアン・ウエストウッド きりんさんの映画レビュー(感想・評価)
パンクであることと名誉を欲することの葛藤
タックを詰めてドレープを膨らませる・・
白いドレスがまるで見事に花弁を開こうとする白バラのようだ。
貧しい労働者階級ゆえに美術学校を一学期で中退したヴィヴィアン。
逆さ十字架と鉤十字が世間への不満と反抗を爆発させている。
拘束服を想起させるフリースもだ。
破壊的なファッションに身を投じ、英国の御用宗教と格差社会にアンチを突きつけたのだけれど、
観終わって結論として感じてしまったのは
「リトル・ダンサー」しかり
「フル・モンティ」しかり、
イギリスの炭鉱労働者ものの映画などと同様に、ヴィヴィアンの生涯も《貴族出身でない低クラスソサエティの足掻きと上流階級への憧れ》は想像以上に《超えられないものとしてあの国を縛っている》 ― という事実だった。
パンクな彼女とは裏腹に女王から「デイム」の称号を叙勲されて誇らしげなヴィヴィアン、
自称アナーキストの筈が、ファッションアワードを2年連続で受賞して手放しで喜んでいる彼女。
“上昇志向” “お墨付き願望”の彼女もそこにいた。
どちらもヴィヴィアン・ウエストウッドなのだ。
あれを見ちゃうと
ちょっと哀しくて、ちょっと残念だけれど、「アナーキズムを語る特権」は生粋の裕福な知識階級だけのお遊びなのかもしれないなぁ。
本当はお姫様になりたかった?
違うか?
底辺に生き、浮かばれることを夢見る階層というものは、とうとうインテリなアナーキストにはなれないのだと映画を観ていて感じた次第。
でもね、
表向きはフェミニンなドレスなのに、背中側に回ればまさかと思うような引き攣れ(ヒキツレ)を入れたり、破ったり、裂いたり、継ぎ合わせたり。
アヴァンギャルドな一面は、どっこい残っていた。
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