「映画が始まった場所で映画が終わった。」アポロンの地獄 talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
映画が始まった場所で映画が終わった。
冒頭の映像はパゾリーニが青空を見上げて自分が見たいもの、瑞々しい木々の緑の葉を彼の視線で映してるのかなあと思った。半ばまでは、そうだね、という感じで能の鳴り物と笛と荒野。「王女メディア」の世界だった。流す涙も。でもフランコ・チッティは「アッカトーネ」の時と同じやさぐれ男にしか見えなかった。
ところが!オイディプス王になりそもそも自分の生まれ育った所に戻ってからの彼はとても良かった。町と市民を思う王は一方で「まさか」と思い悩み苦しむ。貴い生まれの者だけに許され突きつけられた苦悩と懊悩。両目を潰してからの顔も身体も言葉も威厳があって光輝いていた。
神託や預言者の言葉なんてもう過去のものとなったイタリア。経済成長の波に乗って醜い工場や壁や煙。その中で彼とAngelo(まさに天使のような無垢の笑顔!「テオレマ」でも笑顔がはちきれそうな郵便屋さんだった)は青空と緑したたる野原に向かう。
パゾリーニの映画にだんだん慣れてきたかなあ。いきなりアップとか台詞少ないとか絶叫とか衣装の美しさとか荒野とか東洋と西洋の音楽。正統をあえて外す。そして独特というか奇妙なカメラワーク。パゾリーニの映画はこれで4本見たことになるが今のところこの映画が一番好きだ。
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