悪魔の美しさのレビュー・感想・評価
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【”悪魔の如き美しさを誇るは、ジェラール・フィリップ貴方です。”今作はゲーテ作『ファウスト』をルネ・クレール監督が軽やかでコミカル風味ある素敵な恋愛劇に翻案した作品なのである。】
ー ジェラール・フィリップ主演作は、数々観て来たがこの端正な顔立ちのフランス俳優は、品良き仕草や声の良さなどもとても良いのである。
何と言っても、あの高峰秀子さんが、彼が来日した時に会った際に、その紳士的なふるまいと柔らかな笑顔に”ヤラレチャッタ”人なのである。本物の人なのである。-
■大学教授・ファウスト博士(ミシェル・シモン)は、自らの顔を鏡で見て老いを感じていた。悪魔の手下・メフィストフェレスはその悩みにつけ込み、魂を売り渡すよう博士を説き伏せ、魂の代償に美しき青年・アンリ(ジェラール・フィリップ)の姿に変える。
アンリとなった博士は美しい王妃マルグリット(ニコール・ベナール)と出会い、恋に落ちるが大公と大公妃により。メフィストフェレスの企みは暴かれ、民衆に追われるのである。
◆感想
・今作は、ゲーテの戯曲「ファウスト」を翻案しているが、内容に重さはなく、逆に軽やかなコメディ風味も漂っている。
・それは、老ファウストからメフィスト・フェレスの企みにより、美しき青年・アンリとなった際のジェラール・フィリップが身に纏う優雅さであり、艶のある声が、軽やかな風情にこの作品をしているからである。
・ラストも、ナカナカにシニカル&コミカルで、企みがバレたメフィストフェレスが民衆に追われ、飛び降りて死ぬという設定、演出が愉快である。
・ジェラールが悪魔・メフィストと青年・アンリの2役を演じているが、全く違和感はないのである。
<今作はゲーテ作『ファウスト』をルネ・クレール監督が軽やかでコミカルな恋愛劇に翻案した作品なのである。矢張り、ジェラール・フィリップは素敵なる俳優である。>
一度観ておくと良い
リメイクしてもよいのでは?
ドイツの文豪ゲーテの小説「ファウスト」に着想を得ているものの、筋書きはオリジナルとのこと。もし自分が若返れたらどんな生き方をする?というちょっと難しいテーマを悲喜劇に仕立ててあり、今観ても全然古臭くなくて驚いた。
主演の二人が共に目がクルクルとよく動いて愛嬌があり、演技力も確かでハマっていた。
超豪華なセットでの西洋演劇を鑑賞できる映画。
今日びの俳優陣でリメイクしてもらったら絶対映画館に観に行く。内容の良さを思うと日本語のタイトルがもう一つ残念な気がした。
名優ジェラール・フィリップとミシェル・シモンを生かしたクレール監督の演出と、含蓄のあるファウスト劇の面白さ
ルネ・クレール監督の帰仏第二作目で(ファウスト)伝説を題材にした意欲作。戦前の名作に観られる活気ある演出タッチが無い代わりに、50歳を過ぎた老境の人生観がシニカル且つユーモア溢れるストーリーに反映されて、とても含蓄のある映画になっている。それは、人間と悪魔の深刻な対決をクレール風喜劇に脚色していて、笑いの中に風刺の効いた人間社会批評をしているためである。単に面白いでだけでは片付けられない、生きていることの不可思議さや人間に潜む悪魔的な側面を考えさせる奥深さがあり、とても興味深いクレール映画だった。
魔王の僕メフィストフェレスが二流の悪魔で、老教授ファウストに馴れ馴れしく話し掛けるところから、まず可笑しかった。それが、ミシェル・シモンとジェラール・フィリップのコンビで絶妙に演じられては、全く感心せずにはいられない。これは、二人の名演と共にクレール監督の演出の上手さ故であろう。ファウストがメフィストフェレスによって若い青年の姿に変えられ、それまでの不自由な肉体では望めなかった青春を思う存分楽しむ。泥酔したファウストの前に現れたのは、旅芸人のジプシー娘マルグリードで、二人は離れられぬ仲となる。愛と青春の両方を手に入れるのだが、老ファウスト教授が消えて大騒動の中、好事魔多しの如く、青年ファウストは殺人者の汚名を着せられ裁判に掛けられる。窮地に立たされた彼は、悪魔によってこの若き姿になったと告白してしまう。そこに何と老ファウスト教授が現れるところがいい。クレール監督らしい展開の面白さが斬新である。
メフィストフェレスはファウスト教授に身代わり、青年ファウストの魂を貰い受けようと企む。時の大公が紙幣に代わって金貨の必要性を説くと、メフィストフェレスはただの砂を大仕掛けの機械で金貨に代える錬金術の魔力を使う。悪魔に協力した青年ファウストは、その金貨のお蔭で騎士となり大公夫人ともお近づきになれる。彼はこの上もなく幸せな人間になるのだ。
しかし、あくまで魂欲しさのメフィストフェレスは魔術を解き、青年ファウストを金貨の大泥棒に仕立て上げるのだった。最後はマルグリードを登場させて、二転三転のストーリーを奇麗にまとめて終わるのだが、そのハッピーエンドに爽快な後味はない。人間の愛の力により策略が失敗に終わるメフィストフェレスが、人間が一番怖いと吐いて滅びるのが印象的だ。また、幸福に仕立て上げられた青年ファウストが宮中の鏡で見せられる独裁者の未来に苦しむところも忘れられないシーンとして残る。これは、第二次世界大戦中アメリカに亡命せざるを得なかったクレール監督の個人的な心境が反映されているのだろう。
ファウスト伝説を19世紀の貴族社会の中で描き、20世紀に問うたルネ・クレール監督の作家的断面。幸福な人間とは、の哲学的な切り口ではなく、欲望に打ち勝つ人間の善を見据えたクレール監督の大人の視点がある。そして、ジェラール・フィリップの演劇要素の高い演技力とミシェル・シモンのコメディ演技の上品な巧さが、対照的でありながら噛み合った面白さがまた見事であった。クレール監督の戦後作品の最高傑作であろう。
1980年 1月10日 フィルムセンター
魂を売りたい
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