「ソダバ、クルーニー、ジェニロペの最高傑作」アウト・オブ・サイト 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
ソダバ、クルーニー、ジェニロペの最高傑作
エルモア・レナードが書いた犯罪小説はゆるい会話コメディという側面があって、物語もうねうねと蛇行しながら進むことが多く、映像化されがちなわりに成功例が少ない。タランティーノはエルモア・レナードの大ファンで、レナードタッチを駆使して『パルプ・フィクション』を作り、さらにレナードの「ラム・パンチ」を原作に『ジャッキー・ブラウン』を撮った。どちらも好きな映画だが、レナード作品の映画化で最高傑作はどれかと聞かれれば確信を持って『アウト・オブ・サイト』と答えたい。
監督はスティーヴン・ソダーバーグ。デビュー作『セックスと嘘とビデオテープ』で若き天才と呼ばれたのも昔話となり、その後は何を撮っても批評、興行ともに失敗。ヤケクソのような自作自演の超シュールな自主映画『スキゾポリス』もド滑りして、もうハリウッドに居場所はないような状況だった。どん底状態で『アウト・オブ・サイト』を撮らないかと声がかかり、本人もコマーシャルなエンタメ映画を撮れるかのかと不安を感じていたという。
しかし蓋を開けてみたら、ソダーバーグのエッジな実験精神と、エルモア・レナードの飄々とした可笑しさがピッタリハマって、最初から最後まで粋が詰まった犯罪コメディに仕上がった。脱獄した泥棒のジョージ・クルーニーと女捜査官のジェニファー・ロペスの恋模様もベタベタしないがロマンティックで、双方のベストアクトだと思っているし、なんならソダーバーグの最高傑作でもある。
ちなみにレナードの小説はユニバース方式で世界観を共有していて、本作はそれに倣ってマイケル・キートンが『ジャッキー・ブラウン』で演じたのと同じFBI捜査官役でチラリと登場する。事前にタランティーノの了承を取って実現したクロスオーバーであり、この出入り自由な感じはレナードの小説世界の風通しのよさと直結していて、原作ファンも嬉しくなるサービスだった。