劇場公開日 2014年1月18日

「ここは何処? わたしは誰? 自分がだれなのか分からなくなった私たち=大都会の人々へのラブレター 倒れていた男と 謎の人々の物語」愛・アマチュア きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ここは何処? わたしは誰? 自分がだれなのか分からなくなった私たち=大都会の人々へのラブレター 倒れていた男と 謎の人々の物語

2025年4月21日
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鑑賞方法:DVD/BD

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《記憶喪失》の人に会った事がありますか ?

うちの弟、
自転車で転んで一時的に記憶喪失になった 希有な体験を持つ。
「自分が誰か」―というさいごの砦 は大丈夫であったが、その時は「自分がいま何故ここにいるのか」が本当にわからなかったのだと本人の弁。
彼は東北の山奥に山村留学をしていて、誰も通らない林道のつづら折り。コンクリートの道路で、そこで自転車で転倒。
「自分が何処にいるのか」が本当にわからなかくて
「物凄く怖かったのだ」と。

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本作、
倒れていた男 のみならず、出てくるみんなが何者なのか、いろいろ伏せられていて、正体が不明。
記憶とか、自己認識とか、
そして自分の存在証明って一体何なんだろう?って観ているこちらも思い始めてしまう仕組みなのだ。

イザベル・ユペールが、まだずいぶんと若くて。娘時代の出で立ちで可愛らしいのです。
官能小説に挑戦する 元修道女。水色の地味なワンピースを着ていて、設定がはっちゃけていますが、うぶな彼女を見るのは僕は初めてです。

そしてそんな彼女を励ますポルノ雑誌の編集長は、今でこそ三文雑誌を作っているが、実は社会派のジャーナリスト志望の硬派。
変な人たちはもっと出てくる、
カフエのヒステリー店員、
どうかしている婦人警官、
闇の税理士や修道院のシスターたち。

そして主人公となるのがポルノ女優のソフィアを追うマフィアのトーマスだ。
彼は頭を打って、目の前にいる女たちが自分の消すべき標的なのだとは認識出来ない。
《記憶喪失》とはいえ、自分を狙う殺し屋と暮らすのは、周囲にとっては とんでもないスリルだ。

・この人に目覚めてもらっては困る、
・この人の過去の記憶が甦ってくれては困る。
そう思いながら、遠ざけるべき男と一緒に居るわけだ。

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映画のコトバ
私と寝る?
名前も知らない俺と寝るのか
あなたも自分の名前を知らないじゃない
(バスルームで)。

謝るよ。
私に何を誤るの?わかってるの?
いや。分からないんだ。
何を謝りたいのか・・。でも謝る。
・・何か意味がある筈だろ?
昔の僕がどうあれ、これが今の僕だ。

↑↑この玄関の石段に座るイザベルと、そこに背を向けて腰をおろしている唐変木トーマスとの会話。
この雰囲気が大好きで何度もDVDを巻き戻した。

トーマスは全て忘れているが、トーマスの周りの人間はトーマスを知っているのがキモだ。

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実際ね、僕たちは皆、故意であろうと無意識的であろうと《記憶喪失者》なのだと思う。
いっぱい忘れているだろう、
あれもこれも。
具体的に手を出さなかったにせよ
追われていたことも、人を追っていたことも。
大に小に、傷付けたことも、傷付けられたことも。
殺そうとしたことも、殺されそうになったことも。
恥を晒したことも有れば、他人の恥を見知ってしまったこともあった。

忘れてしまった過去と、忘れようとして記憶の底に深く沈めたしまった過去と。
そうなのだ、本作の《記憶喪失》の人間模様は、特異な設定ではあるが、《覚えている人との同居》の、いつもの私たちの毎日でもあるのだ。

ああ! この居心地の惡さ。
僕の恥ずかしい過去を知っている人たちと同じ世界に生きている事の、この辛さw

でも、自分でも分からない自分のことを「ええ、私はこの人のことをよく知っていますから」と答えてくれるイザベルや、誰かの口添えによって
僕たち、この殺風景な世界にやっぱり存在していた事になるのだな。

監督ハル・ハートリーによる
ニュヨークインディペンデントムービーでした。

イザベル・ユペール、
白い壁、水色のカップ、水色の瞳。ふわふわの金糸のような髪と細い首。
バイオレンスとセックスと人間喪失の大都会に、ダ・ビンチのルネサンスから現れたかのような神々しさ。

きりん
talismanさんのコメント
2025年4月22日

きりんさーん、山口崇さん、亡くなった!とてもショックです。彼の平賀源内がすごく好きでした。淡路島の出身者なのか、山口さんも妻も娘も息子も長唄やってらしてます。息子は唄方で美声で泣けます!そのお姉さまのしゃみせんも素敵です!教皇と同じ時期に亡くなるんかい!と悲しいです

talisman
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