「名匠と名優による心に届きやすい再生物語でした」雪に願うこと スペランカーさんの映画レビュー(感想・評価)
名匠と名優による心に届きやすい再生物語でした
ジンワリと心に響くいい映画でしたね、そしてどことなく昭和の香り漂う直球の人間ドラマでした。
人は大なり小なり挫折を経験する生き物、むしろ挫折をするからこそ成長できる、それが人間ならではの特徴ではないかと思うのですが、この映画ではストレートに挫折をした人間の再生物語が描かれていたので、捻りが無かった分、余計に心に語りかけてくるものが多かった映画でしたね。
東京で挫折した男とばんえい競馬で関係者から既に諦められ末路が見えている馬が、共に再び走り出そうとする姿、ベタベタな展開ではありましたが、でも丁寧に心に届くよう描かれていたので、見ていてホント勇気を貰える映画だったなと、そう素直に思わされました、人は時として失敗してしまうこともありますが、でもきっとやり直せる、そんな希望の光がとても優しかったです。
伊勢谷友介が演じた主人公の学と、ばん馬のウンリュウのリンク具合がまた本当に良かったんですよね、人と馬は当然ながら言葉は通じないけど、でも何か心に伝わるものはあるのかな、同じ生き物として。
そこに吹石一恵が演じた騎手の牧恵の再生物語が加わったことも相まって、余計に感情移入させられてしまいました。
ただ正直ラストは盛り上がった感情を置いていかれた感は無きにしも非ずだったかな、まあ映画的には余韻に浸れるああ言った描き方もありなんでしょうけど。
しかしばんえい競馬って、あまり私には馴染みが無かったのですが、まあスピード感は全く無いですけど、迫力があってパワフルでこれはこれでまた違った魅力のある競馬なんですね、観客と一体になって楽しめるところも魅力の一つだったでしょうか、一度立ち止まって、溜めて溜めて最後にもう一度走り出す、あの姿が学の人生と重なるよう描く辺り、心持って行かれましたよ。
それにしても、人生の再出発って、何でこんなにも北の大地が似合うんでしょうかね、帯広の凍てつく冬の空気感、大自然の雄大さ、そして人と馬の生きる力強さ、それらが映像からヒシヒシと伝わってきて、より再生物語に彩を与えていたなと思いました。
またそんな北の大地に、妙に佐藤浩市が映えるんだなぁ、もはや名人芸とも言える佐藤浩市ならではのキャラクターがあってこそ成り立った映画でもあったでしょうか、すぐ手が出てしまうのは難点でしたが、心は温かい、そんな様子に映画としての安心感すら感じてしまいましたね。
一方兄と対照的だったのは弟の学でしたが、ホントいけ好かない雰囲気満載でしたね、見ていて何度もイラっとさせられましたが、こちらも伊勢谷友介の雰囲気に絶妙にマッチ、このキャスティングの時点で既に見応えある映画に仕上がることは確実と言った感じだったでしょうか。
小泉今日子もまたいい味出してましたね、凛とした佇まいの中に時折見せる寂しさが、まさしく絶品、現地人にしか見えない厩舎の賄い婦姿がとても似合っていました、厩務員役の山本浩司もほんわかしてて妙に癒されたなぁ、それから名匠・根岸吉太郎監督の人脈なんでしょうか、チョイ役で結構なメジャーどころの俳優さんが多数出演していましたね。
まあ何にしても、名匠と名優によって丁寧に作られた再生物語、苦みを味わったことのある者ならば、何かしら感じることのできる作品だったのではないでしょうか。