「いやぁ、映画って本当にいいもんですね」映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ夕陽のカスカベボーイズ ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5いやぁ、映画って本当にいいもんですね

2020年6月2日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

な、なんと、悪役にジョン・ウェインとは!!!!
いや、それだけで驚くでない。酒場での乱闘や抑圧された市民の解放劇など西部劇の定番を押さえつつ、果てにはユル・ブリンナー、クラウス・キンスキーまで登場しての列車チェイス!些かアナログな巨大ロボットはさしずめ『ワイルド・ワイルド・ウェスト』だろうか?

そんな隠れた名作オマージュを見つけるたびに、作り手たちの映画研究の貪欲さに心底関心させられる。クレヨンしんちゃんの劇場版はしばしば“大人が見るべきアニメ”として扱われることも多いが、本作は西部劇という特異な舞台設定であるがゆえに、風俗描写や暴力描写など少々子どもには辛いシーンもあるのも事実。全体的にも少しシリアスな物語展開で、いつも尻軽な(尻出しな?)しんちゃんが本気で恋をする展開は『女王陛下の007』を初めて観たときを思い出す。しかし、物語の加速と共にギャグ描写も凄みを増し、それらのギャグがシリアスになりすぎない潤滑油となって機能する展開はさすがとしか言いようがない。

だが、この作品の一番の魅力は“映画そのもの”というところにあり、ひいては“あなたにとって映画とは?”という疑問を観客に投げかけてくる。我々は映画を観て、笑い、泣き、怒り、そして、時に登場人物に恋をする。映画館にいる2時間程度のその体験を我々はどれだけ覚えているだろうか?その意味においても、昨今あまり作られなくなった“西部劇”を舞台にしたのは的を得ている。そして、エンドロールは本作の白眉であり、これはクレヨンしんちゃん版『ニュー・シネマ・パラダイス』と言っても過言ではないだろう。水野晴郎をイメージしたであろうマイクが映画館を立ち去る際にあのセリフを言ってくれれば満点だったかもしれないが、映画を観て育った良い子の大人たちにこそ観て欲しい一作である。

Ao-aO