「柄本佑を受け止める原田芳雄と石田えりを受け止められなかった香川照之の群像劇」美しい夏キリシマ やどかりさんの映画レビュー(感想・評価)
柄本佑を受け止める原田芳雄と石田えりを受け止められなかった香川照之の群像劇
黒木和雄の戦争三部作『TOMORROW 明日』『美しい夏キリシマ』『父と暮せば』の二作目。『父と暮せば』も広島の原爆映画で原田芳雄の父と娘の宮沢りえが良かった。原田芳雄は渋いよな。頑固親父役だったがキャラに合っていた。終戦までの群像劇で軍国親父の原田芳雄(祖父だった)と孫息子の柄本佑の対立。柄本佑は病気で兵役に行けない学生役で気弱さを上手く演じていた。これがデビュー作なのか。新人章総なめという感じだろうか。映画としても抒情的だけど家族の対立を描いていて良かった。
原田芳雄の祖父は牧瀬里穂の娘とも対立しているというか、娘はモダン・ガールなんだが、彼が特攻隊員で最後に会いにくるんだが、そういうシーンも日本的美意識(死ぬこと)をかんじさせながら、死ねない役を柄本佑と石田えりが演じていた。石田えりは、夫が行方不明で死んだものと思って、霧島にやってきた兵隊の愛人になるのだが、息子や娘がいてどうしようもない家庭不和を描く。その相手のなさけない兵隊が香川照之でやっぱこういう役が上手いんだよな。密会が見つかって上等兵から痛めつけられる役とか。石田えりが心中に誘うのだけど逃げてしまうとか情けない役だった。
やっぱ石田えりのエロスと女の悲しさが抒情だった(男の視線で)。その対照的なのが牧瀬里穂なのか?お嬢様タイプだけど。あと原田芳雄の部下が戦争で義足で帰ってきて結婚させられる嫁とかの戦争悲劇が描かれている。
でも一番は沖縄の友達を爆撃でなくした柄本佑はその友達の影響を受けてキリスト教信者になるのだが、妹を見舞いした時に敵を取って下さいと言われて戦争が終わったのに竹槍で抵抗しようとする。かれは華々しく散りたかったのだ、生きながらえてしまった。そういう感情は戦後の日本で誰もが持つ気持ちだったのだろう。特攻隊員とキリストと天皇の違いで論争するのだが、埒が明かない。結局戦争から逃げていたのだが、最後は友達の敵を取ろうと失敗する。そしてそれを受け止めるのが原田芳雄の祖父だったということなのか。原田芳雄も自分では命令ばかりする親父で何もしないのだが、最後に孫の気持ちを受け止める。それは娘である牧瀬里穂の気持ちを受け止められなかったこともあるのだ。そういう対立と和解というより終戦があるのだった。
