明治天皇と日露大戦争のレビュー・感想・評価
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太平洋戦争の悲惨な結末の出発点は、日露戦争の圧倒的な戦勝に国民全員が増長してしまったことにある それが本作の本当のテーマだったのだと思う
これは凄い!
これほどまでに凄い作品であるとは知らなかった
白黒のよく見えない映像、しょぼい戦闘シーン、チープな特撮、過剰な演技の歌舞伎的演出
どうせそんなものであろうと勝手に思い込んでいた自分を恥じたい
特撮は円谷英二の弟子の上村貞夫、黒田武一郎の名前がクレジットされている
1969年の東宝の日本海大海戦の於ける師匠の円谷英二には一歩及ばないが、決して悪くないどころか、場面によっては勝るものすらあるぐらいだ
先頭艦の旗艦三笠を敵艦の斉射砲弾が挟夾し、内1発が直撃しているカットは軍事オタクなら思わず声がでるほど痺れるものだ
海面の波浪表現、航行する艦船の艦首波の表現
どれも素晴らしい
旅順港閉塞作戦のシーンは闇夜の航行シーンは良いがドラマパートはよくない
広瀬中佐にスターを配していないので、どうでも良いサイドストーリーに見えてしまう
1969年の東宝の「日本海大海戦」ではそこを加山雄三を配役して人物背景も描いており、本作の失敗点を参考にしていたことが分かる
中盤の見せ場はご存知二百三高地の攻防戦
しかしこのスペクタクルさはどうだ!
1980年の東映作品「二百三高地」をも上回っているほどだ
CG のコピペが無い時代なのに、遥か彼方まで続く行軍の長い長い隊列には仰天するだろう
雪中の中での二百三高地の攻防戦は、本作でしか観た事がない
これが本当だ
他の作品はなんだか温かい季節のようにみえる
記録写真の現場は雪の丘陵地なのだ
そこでの攻防を「二百三高地」にも負けない迫真さで映像にしている
野砲がずらりと並ぶシーンは素晴らしい
奉天大会戦のシーンも雄大な大平原での大部隊での騎兵の機動などを見せてくれる素晴らしいものだ
嵐寛寿郎は明治大帝はまさに絵画でみるそのままの姿形と雰囲気を再現している
田崎潤の東郷司令長官も、あの有名な戦艦三笠の司令塔での指揮光景を描いた絵画から抜けでたようだ
林寛の演じた乃木大将は、残念なことに笠知衆や仲代達矢が演じたようなオーラはない
しかしその風貌はそっくりに再現できており乃木大将にキチンと見える
ステッセル司令官と乃木大将との水師営の会見シーン、奉天入城のシーンも素晴らしい映像で感激した
では本作は戦前を懐かしむ軍国主義的映画なのだろうか?
違うと思う
なぜなら、「二百三高地」のような過剰に感傷的でこそないが、敵味方ともに近代戦争の巨大な人間を切り刻む機械に投げ込まれ死んでいく光景も表現されているからだ
英雄的に戦って死ぬことを決して本作は賛美してはいないのだ
そして明治天皇と軍部とのやり取りに置いても、端々で太平洋戦争に於ける軍部の在り方への批判的な皮肉に聞こえてくるものなのだ
そしてラストシーンの戦勝に沸く提灯行列の光景
それは戦前の栄光を賛美しているだけのものなのだろうか?
それに被さるナレーションはどうだ
それまで一島国に過ぎなかった日本が、世界列強の間に互していく始まりであった
いまこそ我等は日本民族の誇りと力を合わせて、今後の世界平和の発展に貢献すべきであろう
このナレーションを聞いた時、私達観客はみんな知っているのだ
日露戦争に勝ち、増長して軍国主義に傾斜した結果、中国との泥沼の戦争にはまり込み、遂にはアメリカを相手に無謀な戦争に突入して国を滅ぼしてしまったことを
日露戦争は国防の戦いであったことは間違いない
だかその勝利こそが大敗北の遠因であったことを本作は訴えているのだ
ナレーションの後半の部分は、1957年当時の観客に向けて話されている言葉だ
戦後の復興が進み平和日本の再建が急速に進む1957年の公開
二度とあのような間違いをしてはならない
それを全ての国民自身が肝に銘じなければならないというメッセージだ
太平洋戦争は、決して天皇陛下や軍部が起こしたものではない
あの日露戦争の戦勝に沸いた日本国民こそが、増長し、慢心し傲慢になって起こしたものなのだ
太平洋戦争の悲惨な結末の出発点は、日露戦争の圧倒的な戦勝に国民全員が増長してしまったことにある
それが本作の本当のテーマだったのだと思う
・ところどころで詠まれる歌が場面の締めになっててよかった ・天皇が...
・ところどころで詠まれる歌が場面の締めになっててよかった
・天皇が戦するなって言ってるのに反論するヤツいつの時代にもいるんだな
・感傷的な場面がほとんどなくて流れが分かりやすい
スペクタクルは素晴らしいが・・・
1904年(明治三十七年)、国交断絶の後、連合艦隊による閉塞隊が旅順に達する前に沈没。そして旅順総攻撃。ロシア側の最新兵器・機関砲と電気鉄条網により第三部隊は窮地に追い込まれる。失敗。犠牲は1万5千余。秋になるとバルチック艦隊がロシアを出航したという報せが届く。日本近海に到達する前になんとしてでも旅順を落とさねばならない。乃木将軍の更迭問題にまで発展したが、天皇の一声でそれは回避される。
中盤の盛り上がりはやはり二百三高地。乃木将軍の息子(高嶋忠男)が高地に到達して戦死したところか。彼にしてもそうだが、バルチック艦隊に向けての兵士たちが「誰も帰ってこようとは思っていない」などという神風特攻隊の精神がこの頃からあったのだと、これが第二次世界大戦までの日本の戦争の中心に添えられていたことに歴史を感じてしまう。
明治天皇の高潔な人物像といった描写を除けば、ごく普通の戦争映画であり、50年代の映画にしてはかなりのスペクタクル。まずは戦争を避ける努力、国民のことを思う博愛主義者と、美化しすぎのところが鼻につく。さらに、戦争映画とくれば、最後にどこか虚しさを覚えなければ反戦・厭戦映画にはなり得ないが、最後に喜び沸く国民の姿を描いているので、まさしくこれは戦意高揚を狙ったもの。ただ、敗戦後の日本人に勇気を与えてくれた作品となると、複雑な思いにかられてしまう・・・ちなみに『千と千尋の神隠し』に抜かれるまでは観客動員数歴代1位をキープしていたらしい。
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