「60年代の吉田喜重と岡田茉莉子による意欲作で、映像・音楽がとても斬新」水で書かれた物語 Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
60年代の吉田喜重と岡田茉莉子による意欲作で、映像・音楽がとても斬新
吉田喜重 監督による1965年製作(109分)の日本映画。配給:日活
昔、池袋の文芸地下で「エロス+虐殺(1970)」を見て衝撃を覚え、吉田喜重監督及び岡田茉莉子の大ファンとなったこともあり、本映画を視聴。
吉田監督の松竹退社独立後の第一作目ということらしい。なお、石坂洋次郎の異色作という原作(同名小説)は未読。
白黒映画ながら映像のつくりが、今見ても現代的的というか、シャープでカッコイイ。作曲家(1985年にフランス芸術文化勲章受章)一柳慧(オノ・ヨーコの最初の夫)による前衛的な音楽が、画面に抑揚のついた緊張感を与えていた。
そして何と言っても、主人公入川保則の母親役のである岡田茉莉子(1933年生まれ、1964年吉田監督と結婚)が美しく、放つ色気がもの凄い。関係が有る町の有力者山形勲や死の床にある夫岸田森との抱擁シーンが、夫である監督の凝った演出もあり、かなり官能的。
浅岡ルリ子(1940年生まれ)が主人公の恋人・妻役で、珍しくラブシーンも凄く頑張って挑んでいたのは印象に残った。ただ、色気では圧倒的に岡田茉莉子に負けてしまうのは相手が悪くいたし方なしか。
岡田茉莉子の存在を、外出の際は常に持っている日傘が象徴していて、その映像が印象に残った。また混在する現在と過去を、傘柄の違いで分かりやすく見せていたのが効果的。最後の心中シーンでも、湖に浮かぶ日傘というかたちで象徴的に使われていた。そういえばこの映画の撮影は、この後に「田園に死す」、「祭りの準備」、「太陽を盗んだ男」等を撮る鈴木達夫で、成る程というか、絵的にも惹きつけられるものがあった。
物語の表面的なテーマとしては、美しい母親への強い愛着・拘泥からの脱却・自立というところか。そして裏テーマは、母を妾にしている山形勲に体現されている父性社会、旧態的日本社会への嫌悪感や反発・糾弾か。主人公の「あいつは俺たちを人間扱いしていない、自分の持ちものにしやがったんだ」との叫びが、石堂淑朗脚本の中心的メッセージか。
ただ、幼少時に母を亡くし乳母に育てられその後に義母を迎えたらしい吉田喜重監督の関心の中心は、自分の心の中に、肯定と否定的心情が混在する様なかたちで存在する、何処までもひたすら美しく官能的な母親像の映像化である気もした。岡田茉莉子という大女優が自分の躰を使い見事にそれに応えようとして成功しており、お見事とも思った。
撮影の舞台は長野県上田市で、湖も擁する風情ある街並みが絵的にもgoodであった。主人公家族の憩いの場所、岡田茉莉子の不倫場所、主人公カップルのお好み場所として和風で風情のある田沢温泉・たまりや旅館(獅子の口から湯が出ている浴槽が印象的)が何度も登場する。是非行って見たいと思って調べてみたが、残念ながら今は旅館廃業しているらしい。
監督吉田喜重、脚色石堂淑朗 、高良留美子 、吉田喜重、原作石坂洋次郎、企画芥川和敏、製作伊東博吉、駒崎秋夫、撮影鈴木達夫、美術黒沢治安、音楽一柳慧、録音橋本国雄、照明海野義雄、編集浅井弘、スチル長谷川元吉。
出演
岡田茉莉子松谷静香、入川保則松谷静雄、岸田森松谷高雄、山形勲橋本伝蔵、浅丘ルリ子橋本ゆみ子、益田愛子橋本光枝、加代キミ子山谷みさ子、弓恵子芸者、三村薫下島京子、中村孝雄村田、桑山正一山崎、田中筆子ばあや、中川いたる少年時代の静雄。