「冬の華とは何でしょうか?」冬の華 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
冬の華とは何でしょうか?
冬の華として思いあたるのは、
冒頭の15年前の回想で3歳の松岡洋子が持つ風車
成長した現在の松岡洋子
横丁の路地にあった雪に埋もれそうな鉢植えの残菊
思い当たるのはこれらでしょう
それらも指すでしょうが、本当は違うと思います
冬の華、それは主人公の加納、彼自身のことだと思います
仁義の廃れたヤクザの世界に未だに昔ながらの男のままでいるのは彼だけです
それはまるで冷たい雪に埋もれそうな残菊そのものです
だからラストシーンで振り返った加納の顔に雪が降りかかっているのです
本作は外形上、ごく普通のありがちなヤクザ映画です
ただ特徴として次の3作品を下敷にしてかき混ぜて再構成された点で印象の異なる作品になっています
1964年 乾いた花 池部良主演
1965年 顔役 鶴田浩二、高倉健主演
1973年 仁義なき戦い 菅原文太主演
乾いた花の池部良は本作につながっている同一人物にも思えてきます
舞台も横浜です
題名も似ています
衣装のおしゃれさは特筆ものです
そして凄まじい虚無感は本作に反映されているものです
音楽もモダンジャズが使われて、乾いた感覚をもたらしています
本作の音楽はクロードチアリの哀愁たっぷりなギターです
乾いた花がヤクザ映画の乾極であるなら、本作は湿極を目指していることを表現しています
顔役のストーリーは、関東ヤクザ対関西ヤクザの抗争で、本作の筋書きに近いものです
この作品もおしゃれさが際立っています
本作の衣装も地味ながら結構おしゃれです
特に主人公と南の衣装は良く吟味されています
ヤクザ風ではないダンディーさで、素材感も良いものと伺えるものです
しかも、芸術風味というかハイカラ志向があります
主人公の港が見える丘の高級マンションの室内シーンは見事でした
蒼い油絵、藍色のランプシェード、黄色いレモン、バスルームの青いタイル、キッチンの青みのある光
ハッとする美しさです
すべて狙った構図と色彩です
こういった趣向はこの2作品からの由来だと思います
仁義なき戦いは抗争シーンの手持ちカメラのブレなど撮影手法を取り入れています
しかし田舎臭さは本作には微塵も持ち込まれていません
洋子はほんとうは山口百恵で当て書きされた脚本だったそうです
そう聞けば納得です
池上季実子には何の責任もありません
山口百恵を配役出来なかったこと
それならばと代役として池上季実子を配役したこと
これは製作陣側の責任です
山口百恵ならどんなに明るく振る舞っていても、不幸な生い立ちの空気が滲み出ていたはずです
池上季実子にはそんな空気は出せません
冬の華の風情はでません
もっと他にはいなかったのでしょうか?
その配役にしくじった点で本作は大きく羽ばたくことは出来なかったのです
とはいえ高倉健の演技、取り巻く脇役陣の熱演は素晴らしいものがあります