「君達は民主的な社会で自由に生きていると思っているだろうが、一皮剥けばご覧のとおりだ それが監督のメッセージです」武士道残酷物語 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
君達は民主的な社会で自由に生きていると思っているだろうが、一皮剥けばご覧のとおりだ それが監督のメッセージです
陰鬱で圧倒的な物語で、終わってからもしばらくしびれたように何も考えられなくなりました
最後に若干の救いがなければ立ち直れないダメージを受けたままになっていたでしょう
350年に及ぶある信州の武士の家系の物語を全七話で構成しています
すべての主人公を中村錦之助 (萬屋錦之介)が演じます
特に第四話は強烈です
タイトルの武士道残酷物語そのものです
物語だけでなく映像としても強烈なのです
冒頭は現代としての昭和38年の第七話につながるアバンタイトルです
第一話(慶長15年~寛永)
堀家に召し抱えられ、やがて島原の乱の中で切腹する老武士
第二話(寛永15年)
その子供が殿に殉死する
第三話(元禄年間)
男色の殿の餌食に
第四話(天明3年)
小林正樹監督の1967年の「上意討ち 拝領妻始末」の原型のような物語
第五話(明治4年)
廃藩置県でもはや藩主でもないのに忠節を尽くす
第六話(昭和20年)
特攻隊員出撃
第七話(現代、昭和38年)
企業スパイを婚約者にさせる
自分たちではどうにもならない
そういう台詞が終盤にあります
こういう封建的な日本社会は過去のものではない
現代にまで未だに連綿と続いている
君達は民主的な社会で自由に生きていると思っているだろうが、一皮剥けばご覧のとおりだ
君達若者がそれを断ち切らなければ、さらに未来にまでこれからも続いていくであろう
それが本作のメッセージであったと思います
共産党員であった今井監督は、こうした日本の封建的な社会を若者たちが打倒して、民主的で自由な社会を打ち立てて欲しい
そのような願いで本作を撮ったのだと思います
つまり60年安保の敗北の真の原因をそこに求めたのだと思います
しかし本作公開から来年で60年も経った結果はどうでしょうか
このような残酷物語はいまだにあるようです
因襲的な地方や、古い会社や組織だけでなく、東京の超一流と言われる会社でも、本作で描かれたような残酷物語がときおりニュースになるのです
終わってはいなかったのです
また皮肉なことに、共産党や新左翼の組織であってもそうであったことです
いやむしろ強烈に本作の内容に近いことが行われてきたことを21世紀の私たちは知っています
そして共産圏の国々は本作以上の残酷物語がゴロゴロしていたことも知っているのです
なんという皮肉な結果なのでしょうか
数々の映画賞に輝くのは当然の傑作です