「五社英雄演出らしい、チャンバラとは違うリアルな斬り合いの死闘を見せます それを勝新太郎の圧倒的な存在感で裏打ちしたところに最大の見応えがあります」人斬り あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
五社英雄演出らしい、チャンバラとは違うリアルな斬り合いの死闘を見せます それを勝新太郎の圧倒的な存在感で裏打ちしたところに最大の見応えがあります
人斬り
1969年
フジテレビ、勝プロ製作
大映配給
五社英雄監督の、御用金に続いて撮った第2作
公開時の宣伝文句は、「斬る!斬る!斬る! 問答無用でぶった斬る!!」、「勝が斬る!仲代が斬る!三島が斬る!裕次郎が斬る! 問答無用でぶった斬る!!」
なのだから、痛快チャンバラかと思ったらちがいます
が、この宣伝文句は過剰です
橋本忍の脚本なのだからそんなことないのはまあ予想がつきます
原作は、司馬遼太郎の短編小説人斬り以蔵
序盤は土佐の吉田東洋の暗殺シーンがあります
五社英雄演出らしい、チャンバラとは違うリアルな斬り合いの死闘を見せます
それを勝新太郎の圧倒的な存在感で裏打ちしたところに最大の見応えがあります
あとの見所は勝新太郎の演じる岡田以蔵とは正反対な冷酷な武市半平太役の仲代達矢と、石原裕次郎の坂本龍馬の役へのはまりぶり
三島由紀夫の切腹シーンは後半で、少々呆気なく短い
ポデイビルで鍛えあげた彼の肉体が映し出されます
物語性は薄いです
よってドラマによるカタルシスなどもありません
幕末の基本的出来事を理解していないとついていけないかもしれません
本作公開の1969年は70年安保闘争たけなわで新年は神田カルチェラタン闘争で開け幕末にも似たゲリラ戦がいつどこであるかというような騒然とした空気が充満していたのです
5月には有名な三島由紀夫と東大全共闘が東大駒場キャンパス900番教室(講堂)で公開討論が行われています
橋本忍の脚本はこのような空気感を取り入れてはいますが、当時のフジテレビは今では考えられないほどの保守系メディアであったので以蔵は英雄ではなく体制に挑む側に便利に利用されるだけの無知で哀れなテロリストとして描かれています
同様に仲代は革命の為には何人殺そうとも平気な独裁者と描かれています
そして裕次郎の龍馬は世界情勢に目を向けて日本はこれで良いのかを考えろと以蔵を諭す訳です
三島の演じる役も反体制側に理解を示す高い知性としてではなく結局のところ反体制側に利用されただけの政治的ピエロなのです
牢屋に入った以蔵に絡む役で出演するコント55号は当時人気が沸騰した芸人コンビで賑やかしで政治に関係ない層からも客入りを期待しています
果たして御用金に続いて大ヒットになりますが、本作があまり高く評価されてこなかったのは左翼系の層から嫌われたのかもしれません