劇場公開日 1973年6月9日

「良くも悪くも昭和のアンチヒーロー」必殺仕掛人 盟吉津堂さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0 良くも悪くも昭和のアンチヒーロー

2025年6月1日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

興奮

藤枝梅安。
名前がカッコいい。
殺し屋のことを「仕掛人」と呼ぶのはこのシリーズの中だけの造語のようなのだけれど、これもカッコいい。
時代劇はやっぱり名前が命だなあとつくづく思う。

この卓越したネーミングセンスの持ち主は原作者の池波正太郎。言わずと知れた時代小説の大家である。
池波正太郎といえば、藤沢周平、司馬遼太郎と共に「一平二太郎」と呼ばれ、昭和の中年男性から絶大な人気を誇る三大時代小説家の一人だった。
「一平二太郎」の作品群が全て中年男性だけをターゲットにしているというわけではないだろうけれど、本作は本質的には中年男性向けのアクション時代劇である。

本作はテレビシリーズが先行しているのだけれど、ドラマの方で藤枝梅安を演じていたのは緒形拳である。本作の田宮二郎もミスキャストというわけではないけれど、やっぱり緒形拳の方が藤枝梅安というキャラクターに合っている気がする。
実際、本作の後に作られた第二作『必殺仕掛人 梅安蟻地獄』と第三作『必殺仕掛人 春雪仕掛針』は緒形拳に戻っている。

田宮二郎演じる藤枝梅安は甘いマスクと飄々としたキャラクターであまり裏稼業の人間という凄みは感じられない。そのぶん憎めない愛敬があって、製作陣は女性観客のことも意識して田宮二郎を起用したのかもしれない。

でも田宮二郎が演じることで多少雰囲気がやわらいでいるとはいえ、本作が中年男性向けの娯楽作品だというのは変わらない。

藤枝梅安は表向きは腕のいい鍼医者だが、裏では金で殺しを請け負う仕掛人と呼ばれる凄腕の殺し屋である。生きていては世のため人のためにならないような極悪人を得意の鍼を使って人知れず抹殺するのが仕事だ。
ただ、ターゲットが本当に死に値するほどの極悪人なのかどうかは元締めの判断に委ねられていて、梅安自身が裁きを下すわけではない。

梅安自身が自分の意思で裁きを下すわけではないので、いわゆる勧善懲悪的なスッキリ感はあまりない。
梅安はあくまで金を貰って人を殺す実行役でしかないのだ。なので、今ひとつ感情移入しづらくてモヤモヤ感が残る。

でも、昭和の中年男性たちはこういう、善とも悪とも判断しづらいグレーゾーンの領域にいるアンチヒーローを受け入れる、良く言えば懐の深さ、悪く言えばルーズさがあった。

梅安はけっこう女好きでもあり、女郎屋通いもする。結局は女郎にうまくあしらわれて何もできなかったというような三枚目的なところもあり、なんとなく短髪の田宮二郎がルパン三世みたいに見えてくる(笑)。
こういう、平気で女郎屋通いをする女好きというキャラクターも、当時の中年男性たちは普通に受け入れていたのだが、最近はアウトになりつつある。

本作の藤枝梅安は、良くも悪くも昭和のアンチヒーローだと言えるだろう。

かつてはボンドガールを取っ替え引っ替えしていた昭和の絶倫男ジェームズ・ボンドもダニエル・クレイグの代になってからは一途な愛を貫くキャラクターになり、女性観客にも受け入れられるようになった。

藤枝梅安は昭和から平成にかけて四度テレビドラマ化されていて、いずれも自分は未見なのだけれど、規制の厳しいテレビの世界でお茶の間受けするようなキャラクターに変わっていったであろうことは想像に難くない。

そして、最後の映像化から十数年の時を経て、令和になって突如として藤枝梅安は豊川悦司主演で蘇った。

自分の中では仕掛人・藤枝梅安というのはあくまで小説のシリーズであり、こっそりと(?)読んで楽しむものだった(笑)。
だからいずれの映像作品にも食指が動かず、ずっと未見だったのだけれど、今回初めて田宮二郎版を観て、豊川悦司版にも興味が湧いてきた。

昭和のアンチヒーローが令和でどのように描かれたのかこの目で確認してみたくなった。

盟吉津堂
kossyさんのコメント
2025年6月2日

共感&コメントありがとうございます
豊川悦司もどんどん良くなってきた俳優さんですよね~
トレンディドラマ時代は好きではなかったですけど・・・

kossy
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