劇場公開日 2025年6月6日

「バブルが弾けた空虚な空気、決して幸せになれない男と女…鑑賞後の多幸感はありませんが、強く印象に残りますね。 降りやまない雨、闇を照らすシンボリックなネオンサイン、独特の映像美も必見」ヌードの夜 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0バブルが弾けた空虚な空気、決して幸せになれない男と女…鑑賞後の多幸感はありませんが、強く印象に残りますね。 降りやまない雨、闇を照らすシンボリックなネオンサイン、独特の映像美も必見

2025年6月11日
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鑑賞方法:映画館

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2022年5月に逝去された映像作家・石井隆氏の没後3年に合わせた初期傑作4作品が上映中。本日は『ヌードの夜』(1993年)をシネマート新宿さんで鑑賞。

『ヌードの夜』(1993年110分)
本作での土屋名美役は余貴美子氏、村木哲郎役を竹中直人氏が演じる。

バブルが崩壊、祭りの後の空虚感が漂う歌舞伎町。
世間からドロップアウトした何でも屋・村木のもとに、東京の観光案内を希望する謎の女性(名美)が訪ねてくる。
ホテルに送迎した夜、名美から急遽帰ることになったので、ホテルに残した大型荷物を自宅に送り返して欲しいとの留守電が残され、翌朝部屋に戻ると名美は行方不明、浴室に変死体・行方耕三(演:根津甚八氏)が転がっている。
嵌められたことに気づいた村木は遺体をスーツケースに詰め、名美を追い求める…。
同じく姿を消した行方を探す弟分の仙道(演:椎名桔平氏)に半殺しの目に合うが、ようやく名美を探し出す。
彼女の行方との長年の絶ちがたい関係を知った村木は、ほのかな愛情を寄せる彼女と共に遺体処理に協力するが、その矢先、仙道に名美の自宅がバレ、監禁させる。
彼女を救うため、トカレフを買い求め歌舞伎町をさまよう村木だが…。

幼少期の出来事を同郷の行方に長年脅迫されつづけ、他人との結婚さえも許されない薄幸の女・名美を余貴美子氏がこれでもかと情念をこめ切なく演じきります。
村木を演じる竹中直人氏も恋情を抱き、叶わぬ夢となる男の悲哀を体現しています。
切れたら何をするか分からない、行方を敬愛する仙道役の椎名桔平氏も本作でブレイクしましたが、鬼気迫るものがありました。

バブルが弾けた空虚な空気、決して幸せになれない男と女…鑑賞後の多幸感はありませんが、強く印象に残りますね。
降りやまない雨、闇を照らすシンボリックなネオンサイン、独特の映像美も必見ですね。

矢萩久登