劇場公開日 1959年1月15日

「「やっぱり戦争はしちゃいけない」では済まされない」人間の條件 第1・2部 La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)

未評価 「やっぱり戦争はしちゃいけない」では済まされない

2025年8月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 中学生の時にお弁当を二つ持って劇場に向かった時以来、約50年ぶりに全編9時間31分(途中休憩を2回挟んで計10時間)の6部一挙上映に臨みました。五味川純平・畢生の大作の映画化作です。太平洋戦争末期、旧満州の鉱山で劣悪な条件下で中国の人々を徴用していた満州鉄道で労務管理を担っていた男が、労働者を人間らしく扱おうとする内に時代の波に呑まれてやがて自身も戦争へと巻き込まれるお話です。僕の映画史で最長の上映作ですが、ただ長いだけでなく濃密な内容で、50年前には鑑賞後に原作全6巻を読み直したものでした。そして、今回改めて観て。

 例えばです。多くの人に見守られながら特攻機が飛び立って行き、その背後にバラードが流れ、スクリーンでそれを観る人は涙しながら「ああ、やっぱり戦争はしちゃいけないんだ」と思うというパターンが日本の戦争映画に近年多く見られます。それが決して悪い訳ではありませんが、本作はそんな作品と比べると、物語のドキドキ・ハラハラを保ちつつも観客を突き刺す刃の鋭さ・強さ・深さが別次元の凄まじい作品でした。

 中国の人々への加害・日本人の傲慢・軍隊内部(特に内務班)の非人間性・戦場での殺される恐怖・人を殺す恐怖・敗残兵として逃げる緊張感と飢餓感・女性へのロシア兵及び日本兵による性的暴行など、戦争の全てが描かれていると言ってよいでしょう。それらを通して描かれるのは、「個人の甘っちょろいヒューマニズムなど何の力も持ち得ない」という残酷な事実です。原作ではそれを「センチメンタル・ヒューマニズム」と表していました。「では、あなたならどうする?」を問い詰めるスクリーンからの圧力が息苦しいほどで、自分の眼で実際に戦争を見て来た制作者・出演者の人々の戦争への怒りが渦巻いています。

 「私は人間である」と言ってよい条件とは一体何なのか? その辛い問いが、戦争と言う環境下では生身の形で突き付けられます。弱虫の僕はそんな詰問に堪えられとは思えません。一方、戦争が始まってしまったら個人のヒューマニズムなど簡単に圧殺されてしまいます。だから厳しい問いを避けながらのんべんだらりと生きたい僕は、その為にも、戦争の1歩前ではなく2歩前・3歩前で止めねばなりません。それが戦前を生きるまさしく今なのではないでしょうか。

La Strada
La Stradaさんのコメント
2025年8月16日

脱獄さんへ

もはや現在の日本映画界ではこれだけの映画を撮る経済力も気力もないのでしょうね。

La Strada
脱獄さんのコメント
2025年8月16日

終戦記念日は戦争映画を観ると決めてまして、配信でぶっ通しで見てきたばかりです。共感しきりです。

脱獄